アーカイブ: 5月 2016
眠っている間に無痛で歯科治療
埋伏歯の抜歯・インプラント治療・一般歯科治療に対して苦手意識のある方へのセデーション(静脈内鎮静法)の有用性について
歯科恐怖症という言葉をご存知ですか?
歯科恐怖症とは過去に受けた治療がトラウマ(精神的外傷)となり,恐怖心のために十分な治療が受けられない状態になっていることです。
たとえば,子供の頃の歯科治療でとても怖い思いをした,以前にものすごく痛い思いをした,またはご両親が歯科恐怖症である等,こうした体験等がトラウマになってしまい,大人になってもなかなか歯科医院に行けない,治療を受けられないという方は少なくありません。
大人でも,歯科医院が好きだという方は少数派だと思います。
ほとんどの方にとって歯科医院は好きな所ではなく,なるべくなら行きたくないと思われる場所ではないでしょうか?
それでも必要となれば,通常の方は,多少の恐怖心や痛みを我慢して歯科医院に足を運び,治療を受けることは可能でしょう。
しかし、歯科恐怖症の患者さんは,一度受けたトラウマ(精神的外傷)により,治療が必要な状態であることは重々理解していても,歯科医院に行くこと,歯科治療を受けることが困難になってしまっているのです。
このような患者さんの場合,歯科治療に際して生じうる全身的偶発症(迷走神経反射・パニック障害・過換気症候群など)を予防するためには,第一に確実な無痛的治療が必要となります。
そして第二に治療の際の精神的ストレスを緩和することが必要となります。
そのため,これらを解決する有効な手段として,歯科麻酔学の領域において,麻酔薬の吸入や静脈内への点滴によって効果的な抗不安状態・鎮静状態を得る方法が発達してきており,最近は一般の歯科診療所でも幅広く利用されています。
さらに最近では,このような偶発症回避の手段としてだけではなく,患者さんの快適性の観点からも麻酔薬による鎮静下での歯科医療が求められています。
それでは、そこで…
うとうとと眠っている間に歯科治療が終わるという治療方法をご存知でしょうか?
これは,「セデーション(静脈内鎮静法)」といい,鎮静剤などのリラックスするお薬を投与し,うとうとと寝ている状態で歯科治療を行う方法です。( 具体的には,ガス麻酔薬である亜酸化窒素の低濃度吸入や,抗不安・傾眠・鎮痛・健忘作用などを有する薬剤の静脈内投与により行います。)
顎の中に埋まった埋伏歯の抜歯やインプラント治療は,通常では局所麻酔だけで行うこと多く,局所麻酔で十分に疼痛の管理は可能です。
しかし,緊張や不安,恐怖心などのストレスは大きく,治療中の歯科医師の声やドリルでの骨や歯を削る音や振動などは全て感じます。
時には一般の歯科治療であっても,このような恐怖感などの精神的ストレスが大きな問題となることがあります。
セデーションを併用した治療は,難しい埋伏歯の抜歯や,インプラント治療に興味を持ちながらも,不安や恐怖心が強く治療を断念してしまう患者さんにお勧めする治療方法です。
特にインプラント治療の場合,手術が必要となるため,これらのストレスの軽減のため有効であり,広く利用されています。
セデーション(静脈内鎮静法)は,こんな方にお勧めです。
・歯科治療が怖い方(歯科恐怖症)
・過去の歯科治療で迷走神経反射や過換気症候群を経験している方
・嘔吐反射(口に器具が入ると,吐き気がする反射)の強い方
・インプラント手術の時など,大掛かりで時間がかかる治療の時
・高血圧,不整脈,狭心症など持病をお持ちの方
他にも,局所麻酔(口の中の注射)がとにかく嫌!という方にもお勧めします。
皆様の中には,全身麻酔下で親不知の抜歯やインプラント治療,歯科治療を経験した方もいると思います。
しかし,全身麻酔法は入院が必要であったり,日帰り全身麻酔であっても1日かかることが少なくありません。
また,呼吸管理や全身麻酔薬の副作用等も考える必要があります。
そこで,静脈内鎮静下にて治療が困難であった場合や歯科麻酔医によって全身麻酔法が必要と判断した場合以外では,まずは静脈内鎮静法を併用して歯科治療を克服してみることをお勧めします。
セデーション(静脈内鎮静法)の作用と利点・欠点
主なメリット・デメリットを以下に纏めてみます。
利点としては
・点滴からリッラクスする薬を投与すると,傾眠作用や抗不安作用により意識がぼんやりした状態になります。そのため,痛みを感じにくくなるだけでなく,恐怖や不安といったストレスもほとんど感じずに手術を受けることができるのです。また,健忘作用もあるため,術後には手術の記憶が断片的にしか残っていません。さらに,嘔吐反射(口に何かを入れるとすぐにオエッとなる)が起こりにくくなります。
・また,ぼんやりとした状態ながらも声かけには応答するため,医師の指示に合わせて頭の位置を動かしたり,口を開けたりすることができ,手術がやりやすくなります。
・持病をお持ちの場合には循環状態が安定し,恐怖からくる血圧の上昇を抑えることができます。そのため,術中の出血も少なくなり,手術時間の短縮にも繋がります。局所麻酔だけのような痛みの不安もありませんし,全身麻酔のような安全面の不安もありません。緊急時には酸素を準備しており,静脈路を確保しているため,迅速に対応できます。術後は15分~30分程度で意識がはっきりして,帰宅できます。
セデーションの欠点としては,点滴のルートを確保する必要があることです(点滴の刺入部位には表面麻酔のシールを張ることも出来ます)。
また,術後は麻酔からの回復時間が必要なため,帰宅時間が遅くなります。帰宅後は飲酒や自動車・バイク・自転車等の運転が当日のみ不可能となります。
セデーション(静脈内鎮静法)による麻酔は,歯科麻酔認定医・専門医が患者さんに血圧計等のモニターを装着し,血圧や呼吸を観察し,全身状態の管理の下で行います。
このため術者は手術に専心でき患者さんの状況も歯科麻酔医が常時管理していますので患者さんのみならず医療者側にもストレスを軽減できる治療とです。
このため,インプラントにおける無痛治療,安全な治療の一助として近年歯科医院でも広く取り入れられております。
歯科治療が苦手な方,恐怖心を払拭できない方,この紙面をお読みいただきご興味お持ちになった方は,お気軽に当院でご相談下さい。
歯科麻酔科医(専門医) 里見ひとみ
2016年5月27日 カテゴリ:未分類