顎関節症の症状と治療
こんにちは,当院にて研修をさせていただいている研修医の出口詩織と申します。
新型コロナウイルスが猛威を振るっておりますが,皆さん如何お過ごしでしょうか。
お仕事もテレワークに切り替わり外出できずストレスを感じる方も多いのではないかと推察しております。
このストレスにより無意識のうちにお口は上下の歯を強く噛みこんでしまいます。
最近では,このような原因により顎の関節にトラブルを生じ,来院される患者さんが増えております。
今回は,顎のトラブルの顎関節症についてご紹介させていただこうと思います。
1.顎関節症とは?
顎の関節や顎を動かしている咀嚼筋の痛み,顎関節の雑音,開口障害あるいは顎運動異常を主要な症状とする障害を総称して顎関節症と呼ばれています。
2.診断
顎関節症は,顎が痛む(顎関節痛,咀嚼筋痛),口が開かない(開口障害),顎を動かすと音がする(顎関節雑音)のうち一つ以上の症状があり,これらと同じような症状がでることがある顎関節症以外の病気が無い時に顎関節症と診断されます。
実際には,患者さんへの問診,あごの動きの検査,あごや咀嚼筋の痛みの検査,レントゲン検査,必要に応じてMRI検査などを行い,顎関節症以外の同じような症状を呈する疾患を鑑別した上で診断を行います。
3.症状
<顎関節症病態分類>
顎関節症は,学会指針で次のように整理されています。
1型:咀嚼筋痛障害
2型:顎関節痛障害
3型:顎関節円板障害
a,復位性
b,非復位性
4型:変形性顎関節症
4.治療
【咀嚼筋痛障害(1型)】
筋肉マッサージや開口ストレッチ,患部を温める方法,マイオモニター(低周波治療器)による治療があります。
場合によっては,スタビライゼーションスプリントと呼ばれる歯列を覆う装置の作成を行います。
これを使用する目的としては、あごの緊張などをほぐし動きを自由にすることです。
あごの関節を本来の正しい位置に導くことによって症状の緩和につながります。
あとは上の歯と下の歯の接触を緩和することです。
接触を緩和することであごの負担を減らします。
もう一つ方法として挙げられるのが、筋弛緩剤と呼ばれる筋肉のこわばりを和らげるお薬を投与します。
スタビライゼーション型スプリント
マイオモニター
【顎関節痛障害(2型)】
鎮痛薬の投与を主に行い,場合により抗不安薬や抗うつ薬の投与を行います。
顎関節可動域訓練も併用して行います。(下顎前歯に人差し指,中指,薬指をかけ開口時痛よりもう少し強い痛みを感じる程度に開口させその状態で10秒我慢する)
【顎関節円板障害(3型)】
a復位性
十分に患者様に説明を行い,経過観察とします。
理由としては積極的な治療が必要ないためです。
ただし,関節部に雑音発生を恐れて開口を自主的に制限している場合に経過が不要となる場合があるので,積極的で十分な開口をご指導させていただきます。
b非復位性
非復位性の状態とは関節部分のクッションのような役割をしている関節円板が前にずれてしまうことで顎の関節の骨がロックされるために口が開かない状態をいいます。
顎の関節には側頭骨と呼ばれる頭の骨の一部との間に少しだけ空洞があり、この装置を使用することであごの負担を減らせるのでこの空洞をつぶすこと無く維持していく目的でスタビライゼーションスプリントを用います。
【変形性顎関節症(4型)】
変形性顎関節症とは、顎の関節を使って口を開け閉めしているうちに関節部分のクッションのような役割をしている関節円板がすり減ってくることで生じるものです。
関節の骨が元の形に戻そうと修復をするため顎の骨が変形するので、痛みなど様々な症状が表れます。
臨床症状としてあごの関節の痛み、口が開きにくい状態あるいはあごの関節の痛みのいずれか一つ以上を呈するので治療はほかの病態に対する治療に準じて行います。
顎の関節の変形で咬合不全が生じた場合には補綴歯科治療や矯正治療が必要となります。
顎の関節のトラブルは種々な症状があり,的確な診断に基づいた適切な治療が大切です。
顎に違和感を感じた場合には歯科医院にて一度ご相談ください。
歯科医師 出口詩織
参考文献,
顎関節症治療の指針 2018 (一般社団法人日本顎関節学会 編)
新編チャートでわかる 顎関節症の診断と治療(医歯薬出版株式会社依田哲也 著)