歯周病原細菌と血管病変の関わり
皆様こんにちは。
すっかり春らしい暖かな季節となりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?
朝晩はまだまだ冷え込む日もありますので体調を崩さないように気をつけてお過ごしください。
今回は歯周病と血管病変の関係についてお話ししたいと思います。
皆様ご存じかと思いますが、歯周病とは歯と歯茎の境目に付着したプラーク(細菌の塊)・歯石(プラークが石灰化したもの)に存在する歯周病原細菌により歯肉の発赤、腫れ、出血などが起きる病気です。
進行すると歯と歯茎の隙間(歯周ポケット)が深くなり、細菌によって歯を支えている骨などの歯周組織を破壊し、結果的に歯を失う原因になります。
抜歯の主原因(全体)と抜歯の主原因別にみた抜歯数(年齢階級別、実数)
2018年に全国2,345の歯科医院で行われた全国抜歯原因調査結果より
(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-04-002.html)
上図より、歯を失う原因は歯周病が最も多いことがわかります。
そして、近年の研究によってこの歯周病を起こす歯周病原細菌は全身の血管疾患と関与していることが分かってきました。
※
動脈硬化とは、血管の内側にコレステロールなどが付着して血管が狭く硬くなり、血液の流れが悪くなった状態です。糖尿病や高血圧、高脂血症、肥満、喫煙などが原因で発症します。
一般的に動脈硬化と言えばアテローム性動脈硬化症を指します。
その他、血管病変のやや危険なものとして四肢の粥状硬化症、下肢静脈瘤、バージャー病、などと関係があります。
バージャー病については後述させていただきます。
一見、口の中の疾患である歯周病と全身を巡る血管の病変は無関係だと思う方は医療関係者も含め、沢山いらっしゃると思います。
しかし様々な研究により生死に関わる重篤な病変にも関係があることが分かってきました。
次に、そのメカニズムについてご説明していきます。
〇歯周病による循環器疾患に影響するメカニズム
歯周病にかかっている人はそうでない人に比べ1.5~2.8倍も循環器病を発症しやすいことがわかっています。
循環器病の原因となるアテローム性動脈硬化症(コレステロールなどの脂質が動脈内膜にお粥状に沈着した動脈硬化)=粥状動脈硬化の程度が、歯周病と関連することがわかってきました。
興味深いことに、アテローム性動脈硬化が起きている部分から歯周病菌が検出されたという結果が多数、報告されています。
歯周病が循環器病に影響するメカニズムは、歯周病菌やその菌体成分などが、直接、血管に障害を与える作用に加え、炎症の起きた歯周組織で作られる「炎症性サイトカイン」(IL- 1、IL- 6、TNF-αなど)が血流を通じて心臓や血管に移動し、血管内皮細胞やアテローム性動脈硬化部分の免疫細胞が活性化されて、心臓血管系の異常を引き起こすのではないかと考えられています。
また、肝臓が炎症性サイトカインの刺激を受けて作る「急性期たんぱく質(CRP)」の作用がアテローム性動脈硬化症の進行を促すのではないかと考えられています。
国立循環器病研究センターHPより(www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/general/pamph105.html)
さて、先程冒頭でご紹介致しましたバージャー病という病気を皆さまご存じでしょうか。
なかなか耳にされたことがない疾患だと思いますが、こちらも歯周病菌が関与する重要な疾患ですのでこの機会に是非ご理解いただけたらなと思います。
○バージャー病とは
たばこを吸う20才代から40才代の男性(女性は少ない)にみられる代表的な手足の動脈の病気です.
しかもだんだんと血管がつまってくるために,ほっておけば足が腐ってしまう病気です.
別名として特発性脱疽,閉塞性血栓血管炎などと言われることがあります.
病気は,足趾(あしゆび)や指にチアノーゼ(皮膚が濃い青紫色になること)や強い痛みがおこり,時間ともに皮膚が剥げたような潰瘍,腐った壊死と呼ばれる状態になります.
ついには足だけの切断,ひどくなると膝関節の15cm位下での切断になることがあります.
静脈にも炎症を起こすこと,たばこをやめると病気が進行しないことなど特徴があります.
しかし依然原因の定まらない難病とされており、国の特定疾患に指定されています.
アメリカ人のバージャー博士が1900年初頭研究論文を多数発表したことから彼の名があります.
我が国では,1990年頃より発症患者さんが減少しています.
欧米ではすでに我が国より早くから減少していますが,南および東アジアには依然多く,対策が急がれている血管の病気です.
《診断基準(塩野谷)》
50才以下の発症、ヘビースモーカー、下肢の動脈閉塞、遊走性静脈炎と、さらに粥状硬化症悪化因子である高血圧、脂質異常症、糖尿病が無いことである。
(※この基準に1つでも合わない症候群がどうなるのかは一切書かれていない。)
〇バージャー病の研究
この難病の原因の解明と予防法や治療法の開発のために,東京医科歯科大学ではバージャー病共同研究グループを組織して,歯周病学分野石川烈教授と岩井武尚教授を中心に研究を進められてきました.
(以下http://www.tmd.ac.jp/med/srg1/sinryo_buerger02.html参照)
『バージャー病患者の口腔内と患部の血管を調べて,歯周病とバージャー病との関連について検討しました.
その結果,全てのバージャー病患者は歯周病と診断され,その程度はいずれも中等度から重症でした.
また,患部の血管試料のほとんどから歯周病菌が検出されました.
それに対して,正常血管の試料からは歯周病菌は全く検出されませんでした.
この発見は,今まで原因不明であったバージャー病と歯周病の関連を示した世界で初めての成果で,米国の血管外科専門誌 Journal of Vascular Surgery 41巻2005年7月号に 「Oral bacteria in the occluded arteries of patients with Buerger disease」 (バージャー病患者の閉塞動脈内に口腔細菌) と題して発表されます。
この発見によりバージャー病の原因や悪化が口腔内の細菌特に歯周病菌によるという可能性が強く示され,バージャー病の予防法や治療法の開発のための大きな手掛かりが得られました。』
また、バージャー病にかかるということは,たばこによる歯周病の悪化に引き続く歯周病菌の血管感染によるものではないかと考えられています。
そもそも喫煙は動脈硬化の原因となることが分かっており、またたばこの主成分であるニコチンはバージャー病の原因であると考えられ、研究が続けられてきました。
結果として、喫煙がバージャー病を発症させ、痛みを緩和させようと、さらにニコチン依存となり自分の持つ遺伝子型と一致することで病気が進行することがわかりました。
また喫煙は歯周組織に対して下図のような影響を及ぼす為、
現段階の研究結果によるバージャー病の発症にはこれらの因子が複雑に絡み合っているものだと言えます。
〇治療法
現在におけるバージャー病の治療法としては、受動喫煙も含め、第1に禁煙を厳守することだそうです。
このために適切な禁煙指導を行う必要があります。
また患肢の保温、保護に努めて靴ずれなどの外傷を避け、歩行訓練や運動療法を基本的な治療を行い、薬物療法としては抗血小板薬や抗凝固薬、プロスタグランジンE1製剤の静注などが行われます。
重症例に対しては末梢血管床が良好であれば、バイパス術などの血行再建を行うそうです。
血行再建が適応外とされる症例では、交感神経節切除術やブロックが行われており、また肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor 、HGF)を用いた治療について検討が進んでいます。
今回は歯周病と血管病変との関わりについてのご説明をしてきましたが、
歯周病と関係の深い重要な全身疾患はその他にもございますので最後にその一部を
ご紹介させていただきます。
https://www.jacp.net/perio/effect/ 日本臨床歯周病学会HPより
いかがだったでしょうか。
歯周病は、さまざまな全身の病気と関係していることがわかってきました。
互いに影響を及ぼす結果、歯周病も全身の病気も悪化する可能性があります。
生活習慣病や循環器病を持つ患者さんは、歯周病は口の中だけの病気と軽視せず、かかりつけの歯科医師のもとで定期的な歯科検診を心がけましょう。
治療の必要性がある場合は、しっかりと歯科治療、歯周治療を受け、口の中を健康に保ちましょう。
歯周病の原因は、歯と歯ぐきの境目にすみついた細菌です。
そのため日々正しい歯みがきを続けることが一番の予防方法なのです。
自分に合った歯のみがき方を身につけて、自分で歯ぐきの健康を守れるようにしましょう。
また、たばこは歯周病の発症や進行に悪影響を与えることが明らかになっています。
全身的な病気の予防や治療に加えて、禁煙など生活習慣の改善も歯周病予防に必要です。
なによりも健康な歯ぐきを保つこと、つまり、健康な歯でおいしく食べることは、有意義で快活な日常生活を過ごしていくための大前提なのです。
歯科医師 小松リナ
2021年4月23日 カテゴリ:未分類