噛める入れ歯の作り方
皆さま、こんにちは。
暑さ厳しい折、いかがお過ごしでしょうか。
朝夕は少し涼しくなり過ごしやすくなって来たように感じますが、夏の疲れが出てくる頃ですので、お体にお気をつけてお過ごしください。
今回は入れ歯の作り方についてお話させていただきます。
入れ歯は失った歯を補う治療法の1つとしてあげられますが、そもそも歯の喪失は、年齢が高くなるほど進み、高齢者では歯のない人が多くなります。
左下グラフは2016年に行われた全国調査(歯科疾患実態調査)における一人あたりの歯の数(一人平均現在歯数)を年齢階級別に示したものですが、高年齢層ほど値が低く
後期高齢者(75歳~)では、本来持っている歯の数(28本)の半数近くが失われています。
(後期高齢者で20本以上の歯を持つ人は46%です。)
右上グラフは歯の数の平均値を年齢階級別に示したものです。
1980年代以降は増加傾向にあります。
たとえば60歳前後(55~64歳)に注目すると、1975年では14本でしたが、2016年には24本まで増加しています。
〇義歯の使用率
以上のことより平均残存歯数は近年増加傾向にありますが、何らかの補綴物(ブリッジ・部分入れ歯・総入れ歯)を使っている人の割合は年齢とともに高く、後期高齢者では84%に達します。
義歯の種類別に内訳をみますと、歯の喪失が進むにつれて、ブリッジ→部分入れ歯→総入れ歯と、より大きな義歯を使用する状況が窺え、後期高齢者では約3割の人が総入れ歯を使用しています。
〇歯の補い方
失った歯の補い方の種類としては、ブリッジ、入れ歯、インプラントがあります。
保険内の治療であればブリッジや入れ歯、保険外であればインプラントで補います。
ただしブリッジや義歯は保険診療外のものもあります。
また2020年4月より、生まれつき永久歯が生えてこない先天性欠如歯が6本以上ある場合、公的医療保険適用の元、インプラント治療を受けることが出来るようになりました。
〇義歯の種類
全部の歯がない場合は全部床義歯、少数歯欠損の場合は部分床義歯を作ります。
保険適応・適応外の義歯の違いに関しては当院のHPを参照ください。
〇全部床義歯の作り方
【口腔内診査】
適切な義歯の形態把握のためには解剖学的、生理学的知識が必要となります。
概形印象による研究用模型製作
既製トレーにて型どりを行います。
出来上がった模型を使用し上図の各解剖学的ランドマークを元に診査・診断を行い、義歯床外形を設計し、個人にあったトレーを製作することを目的に行います。
個人トレー
【精密印象、筋圧形成】
個人トレーにて、より精密に型どりを行います。
この型どりの際には患者さんに、頬や口唇、舌を動かしていただき機能運動時における入れ歯の形態を記録していきます。
これを筋圧形成または辺縁形成といいます。
〈筋圧形成の意義〉
義歯床辺縁位置や厚さなどを生体の筋活動に調和させるために行います。
無歯顎の場合には筋肉の動きは義歯の離脱に大きく関係し、可能な限り床面積を増やし最大限の吸着を得ることが必要となります。
【咬合床製作】
精密印象によって作業用模型が作られます。
この作業用模型上で咬合床という失われた咬み合わせを再構築する為の装置を上下顎に合わせて作ります。
この段階での粘膜部はレジンという堅い材料でできており(他種類あり)、後の咬合面に置き換わる部分は熱で軟らかく出来るワックスで出来ています。
【咬合採得手順】
①上前歯豊隆(リップサポート)の決定
②仮想咬合平面の決定
③咬合高径の決定
④下顎位の決定
入れ歯での咬み合わせの位置を決めていきます。
元々お使いの義歯があれば参考にする場合もありますが、1から義歯を作る場合はこちらで形態学的、生理的、機能的要素を加味した上下顎の位置を決めていく必要があります。
①では上の前歯の張り具合を決定し②では上の義歯の前方、側方から見た位置を決定し③では上下義歯の垂直的、④水平的な位置を決定していきます。
また作業を進めていく中でエラーが出ていないかワンステップごとに確認しながら行います。
エラーが出た場合は前ステップへ戻り修正を行います。
咬み合わせが定まれば、人工歯配列のための正中線(顔の真ん中を示す線)などの表示線を記入し、上下の咬合床が動かないように固定します。
以上で咬合採得は終了です。
【技工作業】
作業用模型および咬合採得で用いた咬合床を咬合器に取り付けて人工の歯を並べていきます。
咬合器を用いる目的としては、生体外で顎の位置や運動を再現し生体に調和した義歯作製をする為です。
人工歯の種類は、材質、色調、形態と大きさで分けられます。
材質の違いで陶歯、レジン歯、硬質レジン歯、金属歯等で分けられ、色調は皮膚、目、髪の毛の色を参考にします。
また形態や大きさなどは性別、個性、年齢を参考にし、人工歯排列を行います。
【試適】
完成前にワックスでできた仮の義歯を患者さんの口腔内に入れて実際に確認します。
義歯製作に際し、試適の段階で最も重要なものがリップサポートです。
次いで咬合平面、咬合高径、下顎位と言われています。
〔試適チェックポイント〕
・人工歯の選択が正しいか
・前歯部の排列
・咬合高径のチェック
・臼歯(奥歯)の排列
・水平的な咬合関係のチェック
・もう一度床縁の位置、辺縁形態のチェック
【完成】
【義歯調整】
まずは慣れるまで一週間ほどお使いいただき、痛みが出るようでしたら、強く当たっている部分などを削り、徐々にお口に合うよう調整していきます。
【メンテナンス】
3~4ヶ月に一度お口の中と義歯のメンテナンスをさせていただきます。
〇義歯のお手入れ方法
毎食後、義歯を外した状態で歯磨きを行い、入れ歯もお口の中と同様に入れ歯専用の歯ブラシまたは普通の歯ブラシを用いて清潔な状態を保つように
してください。
また寝るときは外していただき、清潔なお水の中で保存してください。
噛む力が強い方や、残っている歯に負担がかかってしまうような方など患者様によっては寝るときも義歯の装着をしていただくことがあります。
現在お使いの入れ歯に痛みがある、咬み合わせが悪い、食事中に動くなどの症状がある場合は歯科医師による調整が必要となりますので、お困りのことがありましたら一度歯科医院への受診をお勧めいたします。
また、快適に使用できていた入れ歯でも、使っているうちにすり減ったり、入れ歯を支える骨が減って粘膜と入れ歯の間に隙間ができるなど不具合が生じることがあります。
入れ歯は、歯科医師が定期的に調整を行うことで長く使用することができます。
本文の作成にあたり、東京医科歯科大学 高齢者歯科学 水口俊介教授はじめ多くの指導員の方より熱心なご指導を受け賜わりました。
有床義歯に関する基礎知識の再確認および臨床における正確な筋圧形成の会得の為の貴重な機会をいただき、心から感謝いたします。
歯科医師 小松リナ
(参考文献)
・歯の喪失の実態 | e-ヘルスネット(厚生労働省) (mhlw.go.jp) 安藤雄一先生
・きちんと確実にできる全部床義歯の印象
・きちんと確実にできる全部床義歯の咬合採得
・きちんと確実にできる全部床義歯の試適・装着
・東京医科歯科大学歯科同窓会学術部 C.D.E 実習コース 参考資料より
2022年8月23日 カテゴリ:未分類