アーカイブ: 11月 2023
顎が痛い!顎関節症のお話
皆様こんにちは。
秋も一段と深まり、紅葉の美しい季節となりましたが、皆様お変わりなくお過ごしでしょうか。
さて、気候も過ごしやすくなり食べ物も美味しい時期ですが、ご飯を食べたり口を開けた時音がする、痛いと感じることはないでしょうか。
今回はそのような症状が出る疾患の一つである、顎関節症についてお話しさせていただければと思います。
1)顎関節症の概念
顎関節症は、顎関節や咀嚼筋の疼痛、顎関節雑音、開口障害ないし顎運動異常を主要症候とする障害の包括的診断名です。
その病態は咀嚼筋痛障害、顎関節痛障害,顎関節円板障害および変形性顎関節症です。
2)顎関節症の病因
顎関節症の発症メカニズムは不明なことが多いといわれています。
日常生活を含めた環境因子・行動因子・宿主因子・時間的因子などの多因子が積み重なり、個体の耐性を超えた場合に発症するとされています。
ここでお話しするのが、個別対応の重要性です。
年齢、性別、社会背景などによって発症因子やリスク因子が全く異なります。
例えば、近所に、すごくおいしいパン屋さんができたので、朝、昼、晩とフランスパンを食べ続けたら、痛くて口が開かなくなった。
あるいは、
・あごにいいと聞いて
・ぼけの予防によいと聞いて
・体に良いと聞いて
起きている間はずっと一日中硬いガムをかんでいました。
などといったことはないえしょうか?
このような医療面接を通じて状況を把握することが、管理、治療を行う上でKey pointとなってきます。
3)顎関節の罹患状況
「平成28年歯科疾患実態調査」をもとに顎関節に何らかの症状がみられる患者数を推定すると約1900万人となります。
癌は高齢になるほど患者数が増えますが、顎関節症は高齢になると患者数が減ります。
すなわち疫学的には、顎関節症は予後の良い、加齢とともに自然治癒する疾患と言えます。
ただし予後が悪く慢性化する患者も一定数存在します。
4)病態分類と治療について
・顎関節症の病態分類(2013年)
【○咀嚼筋痛障害(Ⅰ型)】
治療
行動改善(硬固物咀嚼制限、長時間咀嚼制限、TCHなど不良習癖の除去)
物理療法(咀嚼筋マッサージ)
運動療法(開口ストレッチ)
温熱療法
口腔内装置(オクルーザルアプライアンス)
※TCH(歯列接触癖のことがあり、上下の歯を持続的に接触させることを言う)
【〇顎関節痛障害(Ⅱ型)】
治療
行動改善(硬固物咀嚼制限、長時間咀嚼制限、TCHなど不良習癖の除去)
運動療法(顎関節可動域訓練:開口ストレッチ)
非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDS)
適応外使用(「顎関節症の関節痛」に対して)
ロキソプロフェン(ロキソニン)
ジクロフェナック(ボルタレン)
ナプロキセン(ナイキサン)
変形性関節症なら
アセトアミノフェン(カロナール)など
※NSAIDS(非ステロイド性抗炎症薬の略で解熱鎮痛薬と同義語として用いられる)
【〇顎関節円板障害(皿型)】
・復位性
治療
行動改善(硬固物咀嚼制限、長時間咀嚼制限、TCHなど不良習癖の除去)
運動療法(顎関節可動域訓練:開口ストレッチ)
顎関節徒手的授動術(マニピュレーション)保険適応
に加えて
痛みを伴う場合はNSAIDSを投与
すごくラウドな雑音(大きな音)は内視鏡による処置も検討します。
音が鳴るのが怖くて大きく口を開けないなどといった行為は逆効果となります。
・非復位性
治療
行動改善(硬固物咀嚼制限、長時間咀嚼制限、TCHなど不良習癖の除去)
顎関節徒手的授動術(マニピュレーション)(顎関節円板の整位が可能な症例では試みる)
整位が不可能な症例では、顎関節可動域訓練(モビライゼーション)
痛くてもリハビリなので頑張って開けましょうと応援します。
難治の場合は内視鏡手術も視野に入れます。
【〇変形性顎関節症(Ⅳ型)】
臨床症状として、顎関節痛、開口障害あるいは間接雑音のいずれか1つ以上を呈するので、治療は他の病態に対する治療に準じます。
ここまで顎関節症についてお話しさせていただきました。先にも述べたように顎関節症はきちんと管理することで治癒していく可能性が高い疾患です。
そのため、過度に心配する必要はありませんが、あまり改善が見られない場合、悪化しているような場合には一度早めの受診をお勧めします。
令和5年10月から当院にて臨床研修をさせていただいております、永井綾香です。
大学生活で身につけた知識を十分に発揮できるよう精一杯努めてまいりますのでよろしくお願い致します。
歯科医師
永井 綾香
参考文献
顎関節症の指針2020(一般社団法人日本顎関節学会編)
がんの統計2022(公益財団法人がん研究振興財団)
2023年11月21日 カテゴリ:未分類