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漂白(ホワイトニング)ってよく聞くけれど、何なの?

残暑がまだまだ厳しい日々が続いておりますが、秋の兆しも感じられるようになりました。
夜風が涼しく、朝晩の過ごしやすい気温が心地よい季節ですね。
この季節は、秋の味覚を楽しむと同時に、残暑の疲れを癒し、心身ともにリフレッシュすることが大切です。
美味しい秋の食材でエネルギーを充電して健康な日々をお過ごしください。

皆さんは、鏡で自分の歯を見て「前より黄色くなったなあ」「もっと歯が白くならないかなあ」と思ったことはありませんか?
今回は、歯の漂白についてお話ししようと思います。

漂白には、神経のない歯に行う➊「ウォーキングブリーチ」と、神経のある歯に行う➋「バイタルブリーチ」があります。
さらに、バイタルブリーチは歯科医院で実施する①「オフィスブリーチ」とご自宅で実施する②「ホームブリーチ」があります。
それぞれについてみていきましょう。

➊「ウォーキングブリーチ」

漂白剤を図のように歯の中に入れ、歯の内部から白くする方法です。処置後約1週間で再来院していただきます。
その間、継続して(歩いている間も)漂白されるため「ウォーキング=歩く」ブリーチと呼ばれています。
十分な白さになるまで、漂白剤の交換を繰り返します。3-4回される方が多いです。

適応症(できる方)
・根の先に膿が溜まって、根管治療した歯
・外傷(転倒や事故で歯をぶつけた)で歯髄が死に、変色した歯
・ある程度ご自身の歯が残っている歯

禁忌症(できない方)
・金属による変色
・無カタラーゼ症の方

➋「バイタルブリーチ」

バイタルブリーチには、①「オフィスブリーチ」②「ホームブリーチ」の2種類があります。

①「オフィスブリーチ」は歯科医院で行うもので、1回の治療時間は長いものの、その日のうちに白くすることができます。
漂白操作は歯科医師と歯科衛生士が行うので、口を軽く開けているだけで大丈夫です。

一方、②「ホームブリーチ」はマウスピースをご自宅にて装着する方法です。
毎日一定時間、マウスピースに薬剤を入れて装着していただきます。
利点として、漂白効果の持続時間が長い、自然な白さになりやすいという報告があります。

「オフィスブリーチ」「ホームブリーチ」には、下の表に示すような違いがあり、一概にどちらが優れているとはいえません。
そのため、オフィスブリーチとホームブリーチをどちらも実施する「デュアルホワイトニング」という方法もあります。

オフィスブリーチ
ホームブリーチ
実施者 歯科医師、歯科衛生士 患者様
場所 歯科医院 自宅
治療時間 約90分 1日約2時間×約14日
漂白操作 簡単 煩雑
使用する漂白剤の濃度 高い 低い
効果持続期間 やや短い やや長い
効果が出るまで 即日 1-2週間

適応症(できる方)
・加齢による変色
・軽度のテトラサイクリン歯
・軽度のフッ素症

禁忌症(できない方)
・表面に亀裂のある歯
・欠損が大きい歯
・無カタラーゼ症の方

漂白後の注意

・知覚過敏症
オフィスブリーチでは術直後、ホームブリーチでは開始数日後に歯がしみる症状が出ることがあります。
症状が出た場合、知覚過敏を抑制する薬剤を塗布したり、知覚過敏用の歯磨剤を使用していただいたりすることで収まる場合がほとんどです。

・歯肉の白色化
歯肉が漂白剤に触れることで、白くなることがあります。
数時間から1日程度で元の色に戻りますのでご安心ください。

・飲食物の制限
オフィスブリーチでは漂白後24時間、ホームブリーチでは漂白期間中歯に色が付きやすい状態となるため、色の濃いもの、ポリフェノールが含まれるものなどを避けて下さい。
また、しみやすいため酸性が強いものも避けて下さい。

・色の後戻り
白くなった歯が再度着色してしまうことで、半年から1年で起こることが多いです。
普段の飲食物や生活習慣で個人差があります。

そもそも、何故漂白で歯が白くなるの?

使用する薬剤に秘密があります。
皆さんは「過酸化水素」をご存じでしょうか。
濃度3%前後の過酸化水素水をオキシドールともいいますが、身近なところでは洗濯用漂白剤に含まれています。
この過酸化水素水は光や熱、アルカリ環境、触媒等で分解される過程で、ヒドロキシ(OH)ラジカルというものを生じます。

過酸化水素を歯に応用すると、このヒドロキシラジカルが有機化合物=汚れや着色を分解するため歯が白くなります。
そのため、漂白で歯が削れることはありません。

いかがでしたでしょうか。
ホワイトニングの細かな治療の手順や費用に関して興味のある方は、歯科医師、歯科衛生士までお気軽にお問い合わせください。

歯科医師 田代 憲太朗

(参考文献)
保存修復学21 第6版 永末書店
保存修復学 第7版 医歯薬出版株式会社
これで納得!デンタルホワイトニング 医歯薬出版株式会社

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上顎洞挙上手術とは
~サイナスリフトの有効性~

皆さま、こんにちは。
猛暑の厳しい日々が続く8月になりましたが、お元気でお過ごしでしょうか。
連日40℃に迫る暑さで疲れがたまり、熱中症や熱ストレスのリスクが高まっています。
適切な栄養の摂取と、こまめな水分補給、適度な休息を心掛け、お身体の体調管理に留意しながらお過ごしください。

歯を失うことでタンパク質の摂取量が減少することが報告されています(※1)。
虫歯や歯周病で歯を失った場合に、インプラント治療が有効であることは、近年では広く知られるようになってきています。
しかし、実際には歯を失った後の不十分な骨量が足りず、インプラント治療をあきらめざる得ない場合も少なくありません。
今回は、上あごの骨が薄い患者様のインプラント治療を可能にとする「サイナスリフト術」という治療技術についてお話しいたします。

インプラント治療は、チタンやジルコニアでできているネジ状の棒(「インプラント体」といいます)を顎の骨に埋め、この上部に人工の歯冠(「上部構造」)を取り付け失った歯を回復させる治療方法です。
他の歯を傷つけることなく、自然な形の歯を再現できる等のメリットがあります。

しかし、誰もが選択できる方法ではありません、骨の中にインプラントを埋入するためには、骨の十分な厚みや幅が必要になってきます。

歯を失った部分の骨は痩せて薄く細くなるため、インプラントを支える十分な骨の量を確保できなくなる場合があります。
特に上顎臼歯部(上あごの奥歯)では、骨の上には「上顎洞」と呼ばれる空洞(副鼻腔)があり、骨の厚みが薄くなる傾向が強く、通常のインプラント治療ができないケースが多くあります。
こうした場合に有効なのが、上顎洞底の骨の厚みを増加させる「サイナスリフト術」です。

サイナスリフトの目的

サイナスリフト術の目的は、インプラント体を埋入するため骨の厚みを確保することです。
上顎洞は空洞の外側を一層上顎洞粘膜(シュナイダー膜)で囲まれています。
サイナスリフトでその上顎洞粘膜を持ち上げて作ったスペースに人工骨を填入し骨の高さを増やし、インプラント体をしっかりと埋入できる骨の足場を築きます。

サイナスリフトの術式

この人工骨を填入する方法には、
➊ラテラルアプローチ
➋クレスタルアプローチ
と呼ばれる主に2つの方法があります。

この方法では手術による侵襲が大きくなってしまいますが、より多くの骨を作ることができます。
ラテラルアプローチは、以下のような場合に適しています。

・上顎洞の正面または後方からのアプローチが困難な場合。
・上顎洞の底部の骨量不足が比較的少ない場合に、骨を追加するための十分な領域がある場合。
・上顎洞の位置や解剖学的条件により、他のアプローチ方法が制約される場合。

この方法では、手術による侵襲がラテラルアプローチに比べ小さくすみますが、骨を多くつくることはできません。
クレスタルアプローチは以下のような場合に適しています。

・上顎洞の正面や後方からのアプローチが困難な場合。
・上顎洞の底部の骨量不足が比較的少ない場合に、骨を追加するための領域が制約されている場合。
・サイナスリフト手術の際に、骨増量を行いながらインプラントの挿入を同時に行いたい場合。

サイナスリフト術は上顎洞底粘膜を挙上するため、術後一過性に上顎洞炎の症状を起こすことがよくあります。
また、鼻閉や鼻出血の症状が出やすいので鼻をかむ等の上顎洞に圧力のかかる行為を行うと上顎洞底粘膜が破れる可能性があるので注意が必要です。

サイナスリフト術の効果

【1.骨の増加】
サイナスリフト手術により、上顎洞の底部に骨を追加することで、インプラント挿入に必要な骨の量を確保することができます。
骨量不足の場合、インプラントが適切に固定されず、成功率が低下する可能性があります。
サイナスリフトによって骨量を増加させることで、インプラントの長期的な成功率を向上させることができます。

【2.インプラントの安定性】
骨とインプラントがしっかりと結合(オッセオインテグレーション)することにより、咬合力や咀嚼力を支えることができます。
サイナスリフトによって骨量が増加することで、術後のインプラントの安定性を向上させることが可能となります。

【3.美容的な改善】
上顎の骨量が不足している場合には、歯茎の形が不均一になることがあります。
サイナスリフトによって骨量を増加させることで、歯茎の形態を回復することが可能となり、インプラントや補綴物の装着により、自然な歯の形状を取り戻すことができます。

【4.インプラントの適用範囲の拡大】
サイナスリフト手術によって骨量が増加することで、インプラントの適用範囲が拡大します。
骨不足が原因でインプラントが不可能とされていた患者さまに対して、サイナスリフトを行うことでインプラント治療の選択肢が広がります。

静脈鎮静法(セデーション)を併用すれば、リラックスして手術を受けることができます。

鎮静状態で手術を受けるため、不快感や痛みを最小限に抑えながら手術を受けることができます。
サイナスリフト手術は、口の奥の上顎洞(副鼻腔)の領域にアクセスする必要があり、時には一定の痛みや不快な感覚・拘束感を伴う事があります。
この様な不快感を予防し、手術時の不安を取り除く為に当院では、静脈鎮静法(セデーション)という点滴による麻酔を併用した手術を行っています。

麻酔専門医の管理下で鎮静剤・鎮痛剤を点滴投与することで、術中・術後に手術中の記憶が残ることはありませんので、安心して施術を受けていただけます。

手術後の注意点

・手術後は一時的に出血や腫れが起こることがあります。
・処方された鎮痛剤や抗生物質を指示通りに服用してください。
・手術部位に直接触れないように注意して歯磨きを行い、処方された口腔洗浄液でうがいをすることが推奨されます。
・傷口を刺激しないような注意をお願いいたします。
・手術後数日は、お食事は刺激の少ないものや柔らかいものをお摂りいただき、アルコールは控えてください。

サイナスリフト術は、今まで不可能だった部位へのインプラント埋入を可能とできるとても有用な治療方法です。
骨がないからインプラントをあきらめていた方、この治療に興味を持たれた方はご相談いただければと思います。

歯科医師 清原 秀一

参考文献
(※1)Iwasaki M, Yoshihara A, Ogawa H, et al.: Longitudinal association of dentition status with dietary intake in Japanese adults aged 75 to 80 years. J Oral Rehabil 43:737-744,2016.

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健康寿命と矯正治療

皆さま、こんにちは。
春の訪れが早く、桜の開花も昨年よりも6日も早く発表されました。
新型コロナウイルスを巡る規制緩和も広がり、通常とは言えないまでも3年ぶりにお花見が楽しめる機会が増えそうです。
まだまだ季節の変わり目ですので、体調を崩されないようにご自愛ください。

日々診療していると近頃、矯正治療を希望される成人の患者さんが増えてきたように感じます。
コロナ禍でのマスク生活では窮屈な生活を余儀なくされていましたが、口元をマスクで隠しているこの機会に、今まで二の足を踏んでいた矯正治療に踏み切る方が多いのではないかと思います。
そこで今回は健康寿命の側面からみた矯正治療の利点をお話したいと思います。
矯正治療は審美的な問題を解決することはもちろんですが、かみ合わせを治すことによって高齢になっても歯を残し健康寿命の延伸にもつながると考えられます。

健康寿命

2019年の平均寿命は男性81.41歳、女性87.45歳です。
一方、健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことをいい、2019年の健康寿命は男性72.68歳、女性75.38歳となっています。
平均寿命と健康寿命の差は10歳以上あり、健康寿命の延伸が生活の質の向上につながると考えられます。

皆さんは「8020運動」という運動はご存じでしょうか?
日本歯科医師会や厚生労働省が提唱している運動で、80歳になっても自分の歯を20本以上保とうという運動です。
高齢者になった時に自分の歯を残し健康な生活を送ること目的としています。
(提唱した当初(平成元年)には8020達成者は全体の10%に満たないとされていましたが、現在では50%以上が達成しています。)

8020運動

「80」は、提唱当時の日本人の平均寿命(平成元年)、「20」は「自分の歯で食べられる」ために必要な歯の数を意味します。
今までに行われた歯の本数と食品を噛む(咀嚼)能力に関する調査によれば、だいたい20本以上の歯が残っていれば、硬い食品でもほぼ満足に噛めることが科学的に明らかになっています。
食物を満足に噛めるということは健康寿命にも関係していて老後健康な歯が多いほど認知症や寝たきりになるリスクが低くなるとこが分かっています。

東京都文京区と千葉市で8020達成者を精査したところ、どちらの調査でも「不正咬合」である反対咬合と開咬がいなかったとの報告があります。
反対咬合や開咬は不正咬合の中でも特に奥歯に負担がかかるかみ合わせで、長年負担がかかっていると奥歯から喪失していき残存歯の減少につながると考えられます。

不正咬合

歯並びや噛み合わせの状態が良くない状態の総称。
歯の位置や歯列弓、上下の噛み合わせなどから起こり、放置すると日常生活に支障が出る場合がある。
正常ではない咬合(かみ合わせ)のことです。

不正咬合の種類

叢生(そうせい):歯がアゴに入りきらないでガチャガチャに生えている状態 歯がならぶ場所=骨の大きさとそれぞれの歯の大きさとの間のアンバランスでこのようになります。
歯みがきの時に歯ブラシが行き届かずに汚れが残りやすく、虫歯や歯周病の原因となります。

反対咬合(はんたいこうごう):下の歯が上の歯より前に出ている噛み合わせです。
上下の前歯の傾きに問題がある場合と下のアゴが大きすぎたり上のアゴが小さすぎることによる場合とがあります。

開咬(かいこう): 噛んできても、特に前歯が噛み合わない状態です。
前歯で食べ物をうまく噛みきることができないだけでなく、正しい発音ができないことが多いです。

上顎前突(じょうがくぜんとつ):上の前歯が強く前に傾斜していたり、上の歯ならび全体が前に出て噛んでいます。
また下のアゴが小さかったり、後ろにあることで見かけ上、出っ歯にみえることもあります。
この状態では、口を楽に閉じることができませんし、顔のケガで前歯を折ったり、くちびるを切ったりしやすいです。

矯正治療によって歯並びが良くなれば磨きやすくなり、歯を失う2大要因である、虫歯や歯周病のリスクを下げることができると考えられます。
また、上顎前突による前歯の破損のリスクを下げることや反対咬合や開咬のような奥歯に負担がかかるような不正咬合を改善することによって高齢者になった時の歯の喪失のリスクを下げることが期待できると考えられます。
歯並び、噛み合わせを治すことは歯の健康を保ち、高齢者になった時に健康な歯で物を食べられることによって、健康寿命の延伸にも深く関わってくると考えられます。
もちろん矯正治療にはメリットだけではなくデメリットもあり、矯正治療をはじめるためには詳細な検査をして個人個人にあった治療方針をたてて進めていく必要があります。

そろそろマスク生活も終わりが来そうな時期にはなってきましたが、この機会に一度ご自身の歯並びに関して歯医者に相談してはいかがでしょうか。

矯正歯科医 片岡 烈

(参考文献)
・日本矯正歯科学会HP
・e-ヘルスネット(厚生労働省)

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イオンチャネル

こんにちは。
梅の香に心和む季節となりました。
本格的な春の訪れが待ち遠しく感じます。
朝晩はまだ冷え込みが厳しいので、体調管理にお気を付けてお過ごしください。

私は現在、大学院歯学研究科で歯科研究に従事しています。
主な研究分野はイオンチャネルについてです。

イオンチャネルは、生体にとって欠かせない存在です。
「脳は電気信号で情報を伝えている」という話を聞いたことがあると思いますが、この電気信号を作り出すのがイオンチャネルです。
今回は、そんなイオンチャネルについて、

1.イオンとは
2.細胞について
3.イオンチャネルとは何か
4.イオンチャネルの生体内での役割
5.イオンチャネル研究の医療への応用

の5本立てでお話していきます。

【1.イオンとは】

イオンとは、簡単に言えば、電荷を帯びた原子のことです。
身近な例では、食塩(NaCl)を水に溶かすとNa+(ナトリウムイオン)とCl-(塩化物イオン)に分かれますが、このNa+とCl-がイオンです。

生体内にもイオンは存在していて、Na+(ナトリウムイオン)、Cl-(塩化物イオン)、K+(カリウムイオン)、Ca2+(カルシウムイオン)、HCO3-(重炭酸イオン)などの多くのイオンが含まれています。汗がしょっぱいのは、汗にナトリウムイオンが含まれているからです。
イオンの化学式には右上に小さく+(プラス)と-(マイナス)がついています。
+が付いているイオンはプラスの電荷を帯びている「陽イオン」、-がついているイオンはマイナスの電荷を帯びている「陰イオン」ということです。

また、イオンなどの物質は、多い方から少ない方に移動する「拡散」という性質をもっています。
食塩を水に溶かしたとき、かき混ぜなくても均一に広がりますが、これが拡散です。

【2.細胞について】

細胞は動物を構成する最小単位です。
人の身体は約37兆個の細胞で構成されていると言われており、多種多様な細胞が体中のあらゆる臓器に存在しています。
例えば、心臓を動かす心筋細胞、感覚を伝える神経細胞、骨を維持する骨細胞など、形も機能も様々です。

細胞は、細胞膜により細胞の中と外に区切られています。
細胞の中と外は液体で満たされており、細胞の外側に存在する液体を「細胞外液」、細胞の内側に存在する液体を「細胞内液」といいます。汗や血液(血漿)は細胞外液です。
細胞外液はナトリウムイオン(Na+)、カルシウムイオン(Ca2+)、塩化物イオン(Cl-)の濃度が高く、細胞内液はカリウムイオン(K+)の濃度が高いという特徴があります。

(イオンの濃度を文字の大きさで表現しています。)

普段は、これらのイオンが細胞膜を通り抜けて移動することはありません。
しかし、ある条件下ではイオンは細胞の中と外を行き来することができるようになります。このときのイオンの行き来に必要となるのがイオンチャネルです。

【3.イオンチャネルとは何か】

イオンチャネルは、細胞膜に存在するタンパク質です。開閉する穴を持ち、細胞膜を貫通しています。
普段は、イオンが細胞の中と外を行き来することはありません。
しかし、イオンチャネルが開くと、穴を通ってイオンが細胞の中と外を行き来することができるようになります。

また、イオンチャネルには、特定の刺激によって開くという性質があります。
例えば、温度感受性イオンチャネルは、細胞外の温度変化によって開くイオンチャネルです。

さらに、イオンチャネルは特定のイオンのみを選択して通す性質があります。
例えば、ナトリウムイオンチャネルは、ナトリウムイオンのみを通すイオンチャネルで、それ以外のイオンは通しません。

つまり、イオンチャネルは、ある刺激に反応して特定のイオンを細胞の中に入れる(あるいは細胞の外に出す)ゲートのようなものです。
私が初めてこの話を最初に聞いたときは、駅の改札機みたいだなと思いました。
では、細胞の中にイオンが入ってくることは、生体にとってどのような意味があるのでしょうか。

【4.イオンチャネルの生体内での役割】

刺激によりイオンチャネルが開いて細胞の中に陽イオンが入ってくると、細胞の中はプラスの電荷が増え、それが電気信号となり情報を伝えます。
冒頭でもお話した、脳の電気信号、その正体はイオンチャネルによる細胞へのイオンの出入りだったのです。
しかも、その電気信号は脳だけではなく、体中のいろんな臓器(細胞)で生じています。
例えば、心筋細胞に電気信号が生じると心臓を動かし、神経細胞に電気信号が生じると感覚などの情報を脳に伝え、骨細胞に電気信号が生じると骨を作ります。

【5.イオンチャネル研究の医療への応用】

では、イオンチャネル研究は医療の分野でどのように応用されているのでしょうか。
イオンチャネル研究は、例えば、医薬品の開発に応用されています。
様々な医薬品がイオンチャネルの働きを制御する作用を持ちます。
また、既知の医薬品が今まで知られていなかったイオンチャネルに作用していたことが判明したという報告もあります。

全て列挙するとキリがないので、身近と思われる例を1つあげます。
皆さんは、歯の治療をするときに麻酔の注射を打ったことはありますか?
実は、この麻酔の注射薬はイオンチャネルを標的にした薬です。
この薬は、神経細胞のナトリウムイオンチャネルを開かなくする作用があります。
ナトリウムイオンチャネルが開かなくなると、刺激をされても神経細胞の中にナトリウムイオン(陽イオン)が入らないため電気信号にならず、痛みの情報が伝わらないので痛みを感じなくなります。

ここまで、イオンチャネルについて簡単にお話しましたが、本当はイオンチャネルの厳密なメカニズムはもっともっと細かく、未だに理解されていない部分も多いです。
この記事が少しでもイオンチャネルの理解に、ひいては医学の理解につながれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

歯科医師 倉島竜哉

【参考文献】
・基礎歯科生理学 第7版 医歯薬出版株式会社
・カンデル神経科学 エディカル・サイエンス・インターナショナル
・ニューロンの生物物理 第2版 丸善出版

図はhttps://smart.servier.com/より作成

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口腔機能の低下症とは

皆さま、こんにちは。
日々厳しい寒さが続いておりますが、暦の上では少しずつ春が近づいてきているようです。季節の変わり目で体調を崩される方も多いと思いますので、うがい手洗いなどをしっかりして、体調管理にお気をつけてお過ごしください。

お口の健康に対しての関心が薄くなり、歯磨きの回数や時間が減ったり入れ歯やかぶせ物の不調を放置していると、知らない間に虫歯や歯周病が進行し、歯を失ってしまいます。
歯の本数が減ることで、お肉や硬い野菜を食べることが難しくなりその結果、タンパク質を主とした栄養不足が生じ全身の健康にも影響が生じます。
今回は、食事において重要な口腔の機能が低下していく「口腔機能低下症」についてお話させていただきます。

●口腔機能低下症とは

口腔機能低下症は、口腔の機能(食べたり飲み込んだりする機能、唾液を分泌する機能、話す機能など)が複合的に低下していく症状です。
口腔機能低下症は近年病名がつけられ、こうした名前で認識されるようになったのは、歯科の世界でもかなり新しいものです。

●口腔機能低下症の原因

まず主な原因として考えられるものは「加齢」です。
口腔内の感覚や、食べたり飲み込んだりする機能(摂食嚥下機能)、唾液を分泌する機能などは加齢とともに徐々に低下していくため、そうしたひとつひとつが、口腔機能低下症の症状を起こしていきます。
また、虫歯や歯周病、合わない義歯の使用なども、口腔機能低下症の症状の原因となり、日ごろの歯みがきなどのケアが行き届かないと、口腔内の環境が悪くなっていきます。
それ以外にも、全身疾患や薬の副作用なども関係してきます。
つまり口腔機能低下症は、さまざまな要因が複合的に影響しており、口腔機能は、日常生活や自身の体調と密接に結びついているのです。

●こんな症状がみられたら、口腔機能低下症かも?


 

「硬い物が以前に比べて食べにくい」「食事に時間がかかる」といった症状に最近心当たりはありませんか?
「年だから仕方がないこと」と思いがちですが、加齢変化による口腔機能の低下は、徐々に進行していくため、自覚症状に乏しいのが一般的です。

●検査方法

検査の項目は7つあります。(表1)

簡単に検査内容をそれぞれ説明すると、まずは口腔内の衛生状態の確認として、舌苔といわれる、舌に付着している汚れ(図1)の量を測定します。
また、口腔内の乾燥具合を確認し、測定方法としては、口腔水分計(図2)で湿り気を測ったり、ガーゼを噛んで唾液の量を測定したりします。
他にも、嚙む力や歯の本数の確認や、舌や唇の運動機能の検査、舌圧(舌が上顎の間に接する力)を測定します。(図3)
さらに、食べ物が上手に噛めているかの咀嚼機能の検査や、うまく食べ物を飲み込めるか、飲み込みに時間がかかっていないかどうかなどの質問に答えていただいて、嚥下機能を評価します。
これら7つの検査のうち3つ以上に問題があるようであれば、口腔機能低下症の診断となります。

●最後に

口腔機能低下症は原因の部分でもお話したように、加齢だけでなく、虫歯や歯周病、合わない義歯の使用、日ごろの歯みがきなどのケアが行き届いていないことも原因として考えられています。
口腔機能低下症を防ぐためにも、また、口腔機能低下症の早期発見のためにも、定期的に歯科医院で口腔内のチェックをさせていただき、一緒に、食べることや人との会話の楽しさを守っていきましょう。

歯科医師 奥村 知里

参考文献
一般社団法人日本老年歯科医学会https://www.gerodontology.jp/committee/001190.shtml
https://www.jads.jp/basic/pdf/document_02.pdf
https://www.life-qol.net/mucus
http://orarize.com/pdf/catalog.pdf
よくわかる高齢者歯科学

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「Tooth Wear」とは~歯を失う様々な要因と予防のお話~

皆さま、こんにちは。
早いものでもう師走となり、街は色とりどりのクリスマスイルミネーションが目を楽しませてくれる季節となりました。
寒さが日ごとに増し、今年はインフルエンザが流行りそうとの声もありますので、体調崩されぬようお気を付けてお過ごしください。

さて、今回はむし歯以外で歯を失う原因についてお話しをさせて頂こうと思います。
「tooth wear」という疾患をご存じでしょうか。
toothは歯、wearはすり減り・薄くなるといった意味で、日本語にすると「歯の損耗」となります。
tooth wearの中には ①くさび状欠損 ②咬耗症 ③摩耗症 ④酸蝕症 が含まれています。それぞれについて解説させて頂きます。

①くさび状欠損
むし歯の次に多い歯の硬組織(エナメル質、象牙質、セメント質)疾患です。
エナメル質および象牙質が欠けてしまった状態で、上の奥歯の歯と歯ぐきの間に見られることが多いです。
原因は強い咬合力、もしくは歯ブラシを強く当てすぎであることがほとんどです。
知覚過敏症を併発している頻度も高いため、知覚過敏かと思ったらくさび状欠損もあった、というケースもよく目にします。

治療は、大きな欠けであればセメントやレジンで埋めますが、小さくて症状が無ければ処置は不要です。
ただ、原因を取り除かなければ悪化する可能性があるので、咬合力が強いのであればナイトガードを作り、歯磨きが原因であれば正しいブラッシング方法のご説明を行います。

②咬耗症
歯と歯、もしくは歯と食べ物の接触により歯のかむ面がすり減る疾患です。

固い食べ物強い咬合力、粗造な詰め物やクラウン等が原因とされていますが、病的でなくとも年を重ねれば大抵の方がこの状態になっています。

治療は大きくすり減っていればレジンで埋めますが、小さくて症状が無ければ治療は不要です。
また、ナイトガードを装着し、進行の予防を行うこともあります。

③摩耗症
咬耗症と似ていますが、咬合以外の力で歯がすり減る疾患です。
不適切な歯ブラシや、入れ歯の着脱時にばねの部分がこすれるといったことが多くの原因です。
パイプを常用される方や、管楽器を演奏する方にも起こることがあります。

治療は原因の除去が基本となります。

④酸蝕症
酸性の飲食物を多量摂取することで、歯が溶ける疾患です。

炭酸飲料やジュース、ワイン等はエナメル質が溶け始めるpHを超えてしまっているため、常飲すると酸蝕症の原因となります。

ただ、唾液には緩衝能といってpHを一定に保とうとする働きがあるため、これらのものを飲食したからといってすぐに歯が溶けるわけではありません。
ですが、お口の中に残留している時間が長い程、酸蝕症のリスクが高くなります。

そのため、予防として飲食後は可能であれば歯磨き、無理であれば口をゆすぐ習慣を付けて頂くと、リスクを下げることができます。

ここまでtooth wearの4つの疾患を説明させていただきましたが、いかがだったでしょうか。
恐らく、多くの方が大なり小なり当てはまっていたかと思います。
必ずしも治療が必要な病気ではありませんが、気になることがございましたらお気軽にご相談下さい。

歯科医師 田代 憲太朗

(参考文献)
保存修復学21 第六版 永末書店
飲食物で歯が溶ける?!酸蝕から歯を守ろう! クインテッセンス出版株式会社
保存修復学 第7版 医歯薬出版株式会社

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ドライマウスを昆布のうま味で改善⁈

日に日に秋が深まり、紅葉も少しずつ色付いてきました。
早いもので今年も残すところあと2ヶ月となりましたね。
冬支度などに多忙な時期ですが、体調を崩さないようにお気を付けてお過ごしください。

近年、急激な高齢化を背景に味覚障害を訴える方が増えています。
高齢になると、食べ物の味を感じにくくなります。
味覚は、「甘味」「塩味」「苦味」「旨味」の5種類があります。
舌の先端では甘味、両側の手前では塩味、両側の後ろでは酸味、奥側では苦味、舌全体で旨味を感じます。

食べ物を口に入れると、舌の表面の部分にある味蕾(みらい)で味を感知し、大脳の味覚中枢へ信号として伝わり味を感じています。
また食べ物の香りや口に入れた時の触覚、熱いか冷たいかという温度によっても味を感じます。
加齢により個人差もありますが、「塩味」「甘味」の味覚が低下すると言われています。

味覚障害によって濃い味付けにしないと味が分からないため、食欲不振から栄養不足になってしまったり、塩分や糖分を取りすぎてしまい、高血圧や動脈硬化、糖尿病といった生活習慣病に繋がる可能性が高くなります。

味覚障害の原因は

・服用薬の副作用
・栄養障害:亜鉛欠乏など
・心因性:ストレスなど
・口腔疾患:カンジダ、ヘルペスなど
・全身疾患:糖尿病、高血圧、腎疾患。悪性貧血など

がありますが、味覚障害を訴える方の94%に口腔症状が現れます。
味覚障害に対して歯科が関わる部分で最も高頻度なのは、唾液の分泌量が減って引き起こされるドライマウス(口の渇き)です。

唾液は

・食べ物を飲み込みやすくする
・消化しやすくする
・口臭や虫歯を防ぐ
・味を感じやすくする
・口を通して入ってくる細菌から体を守る

といった働きがあります。
この唾液分泌が何かしらの原因によって減少すると

・口が乾く
・味が感じにくくなる
・口臭が強くなる
・口の中がヒリヒリして痛い
・口の中がベタベタ、ネバネバする
・話しにくくなる
・食べ物が飲み込めなくなる
・虫歯や口内炎が出来やすくなる

といった症状が現れます。

ドライマウスを改善するためには、まず水分を細めに摂取して口の中を潤しましょう。
潤す効果のあるマウスウォッシュや口腔用の保湿ジェルや保湿スプレーも用いると良いです。

そして、唾液の分泌のリズムを取り戻すためにいくつかの方法もご紹介します。

・亜鉛の摂取
味蕾(みらい)の再生を促す亜鉛を多く含む牡蠣、レバー、卵黄、牛肉などがおすすめです。

・唾液の分泌を促すマッサージ
唾液腺マッサージも効果的です。
耳の下から頬に位置する耳下腺、顎のエラの内側の顎下腺、下顎の舌下腺を5~10回ほど優しく指でマッサージしましょう。

または粘膜ブラシを用いた口腔内の小唾液腺をマッサージ方法もあります。

・日常的に人と話すこと、唇や舌を動かすことでも唾液分泌が促されます

また、昆布出汁のうま味成分を用いた訓練方法もあります。
昆布出汁のうま味成分が舌の味蕾(みらい)細胞で味覚として感知されると、唾液反射が起こります。
うまみは後味が残るので、唾液反射が長く続くため、唾液の分泌を促進します。

昆布出汁作り方
細かく刻みを入れた昆布30g/500mlをペットボトルか水筒で作り、1日に10回程度、一回30秒間口をすすぎます。
なるべく長く口に含み、出汁を味わうことによって唾液の分泌を促してくれます。
毎日訓練することにより、2週間ほどで効果を実感できるようになります。

昆布出汁の味が苦手という方は、すこし酸っぱさを感じるくらいの濃度に希釈した
レモン水で同じように訓練してみてくださいね。
頑張ればきっと効果は現れます。

美味しく食事をすることは人生において大きな喜びであり、健康の基本です。
そのためには丈夫な歯、顎、そして正常な味覚は必要不可欠です。

少しでも気になる場合は診察を受け、担当の先生とよく相談してみてください。
疾患が原因の場合は適切な治療を受けるようにしましょう。

歯科医師  鈴木美緒

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親知らずの抜歯,全てお話しします!

暑かった夏も終わり、気持ちのいい秋風に金木犀の香りを感じる季節となりました。
皆さま、いかがお過ごしでしょうか?
季節の変わり目は体調を崩しやすい時期でもあります。
お風邪などお召しになりませんように、くれぐれもご自愛ください。

ところで皆さまは、親知らずと聞くと何を想像するでしょうか。
痛い、腫れる、抜かなければならない等マイナスなイメージを考える方が多いと思います。
親知らずが痛い、腫れると聞くのは何故でしょうか。
そして、本当に親知らずは抜かなければいけないのでしょうか。
親知らずについて、これから説明していきます。

●そもそも親知らずとはどういうものなのかご存じでしょうか。

親知らずは大臼歯の中で最も後ろに位置する歯であり、正式名称は第三大臼歯(だいさんだいきゅうし)と呼ばれていますが、智歯(ちし)と呼ばれることもあります。
親知らずは最前方の前歯から数えて8番目にあり、永久歯の中で最後に発育します。
永久歯は通常15歳前後で生え揃いますが、親知らずは生える時期が概ね10代後半から20代前半です。
親知らずは上あご左右2本と下あご左右2本の計4本ありますが、元々親知らずが無い人や、4本揃っていない人など個人差があります。
親知らずの生えてくる場所が不足していたり生える方向が通常と異なるために、埋まった状態や傾いて真っ直ぐ生えてこないことがしばしばあります。

●親知らずが引き起こすトラブルとは?

1.むし歯

親知らずが斜めに生えてきたり、途中までしか生えて来ない場合は、歯ブラシが届きにくく、むし歯になりやすくなります。また、親知らずと手前の歯(第二大臼歯)の隙間に汚れがたまりやすくなり、手前の歯がむし歯になることもあります。

第二大臼歯は非常に大切な歯ですので、親知らずからの悪影響を受けないようにしておかなければなりません。

2. 歯肉の炎症

親知らずが斜めに生えたり、まっすぐ生えてきても途中までしか生えてこない場合は、歯と歯肉の間にプラークや食べかすがたまりやすくなり、親知らずの周辺が不衛生になります。
これにより、親知らず周囲の歯肉に炎症が起きてしまいます。
これは「智歯周囲炎」と呼ばれ、歯肉が腫れたり、痛みが生じます。

また、重症化すると口が開けにくくなったり、顔が腫れたりすることもあります。
智歯周囲炎がひどい場合は、炎症が軽減してから抜歯を行います。

3. 歯根の吸収

親知らずが手前の歯に食い込むように生えてくると、手前の歯の歯根吸収(根っこが溶けてしまうこと)を引き起こしてしまう場合があります。
歯根吸収が進むと、親知らずだけでなく手前の歯の抜歯も必要になることがあります。

4. 口臭

親知らず周辺は不衛生になりやすいことから、口臭の原因になってしまう可能性もあります。
炎症によって歯肉に膿がたまったり、むし歯が進行したりすることも臭いの原因になります。

5.歯並び

特に親知らずが横向きに生えている場合に多いのですが、歯が生えようとする力によって、前に生えている強い力で臼歯を押すことがあります。
結果として、歯全体に力が加わることで、歯並びに悪影響を及ぼすことがあります。

6.歯肉や粘膜を傷つける

親知らずはお口の中に上下左右で合計4本生えるのですが、場合によっては1本しかない時もあります。
そのような場合には、上下で咬みあう歯の数が異なるため、親知らずによって咬みあうべき箇所の歯肉に傷をつけてしまうことがあります。
同様に、親知らずが歯列に対して、外向きに生えている場合には、歯を咬みあわせる際に、頬を噛むことで傷をつけることがあります。

7. 腫瘍や嚢胞 

骨に埋まっている親知らずの成分が原因で、含歯性嚢胞(がんしせいのうほう)や歯根嚢胞(しこんのうほう)などの袋状の病変や腫瘍ができることがあります。
放置すると大きくなるため摘出術が必要になります。

●抜歯は必要?

親知らずが真っすぐ生えており上下で正常に噛み合っていて問題なく機能している場合や、親知らずがあごの骨または歯肉に完全に埋まっていて、口腔内やあごに悪影響を与えていない場合は抜歯する必要がないこともあります。
しかし、親知らずが原因で不快症状が生じたり、周りの歯や歯周組織にに悪影響を与える場合は抜歯を検討する必要があります。

●抜歯する時期は? 

親知らずを抜歯する場合には20歳前後が抜きやすく、術後の腫れや痛みも比較的楽に済みます。
その時期が丁度親知らずの歯根が形成されている途中のため下歯槽神経障害のリスクが軽減され、骨も柔らかく抜きやすいです。
30歳以降になると歯根が完成し、下歯槽神経が近い場合リスクが上がり、年齢を重ねるにつれ骨も硬くなるため麻酔が効きにくかったり、術後のダメージも出やすくなってきます。

●親知らずを抜くときのリスクはある?

1.下歯槽神経麻痺(かしそうしんけいまひ)

下顎の骨の中にトンネル(下顎管)があり、その中に口の周りの感覚神経(下歯槽神経)があります。
親知らずが神経に近い程、神経を圧迫または損傷してしまうリスクがあります。
損傷してしまった場合は、抜歯した側の唇やあご先、歯茎付近にしびれ(麻痺)がでてきます。

回復には数ヶ月〜数年と長期の経過をたどり回復していきます。
親知らずと神経が近い場合には、CT検査を行い、三次元的位置関係を把握した上で、抜歯を行う場合があります。

2.上顎洞穿通(じょうがくどうせんつう)

上の親知らずの抜歯の場合、すぐそばに上顎洞と呼ばれる鼻とつながっている空洞があります。
親知らずと上顎洞の位置関係次第では、口の中と上顎洞がつながってしまう場合があります。

上顎洞とつながると、お口の中から鼻に水が漏れたり、上顎洞炎(いわゆる蓄膿症)になる可能性があります。
多くは自然閉鎖されますが、閉鎖されなかったり上顎洞炎を起こしてしまったりした場合は、後日、手術が必要になることもあります。

3.感染

抜歯をした後の傷口に細菌が感染した場合に抜歯後感染が起こります。
感染を起こさないよう処方されたお薬は必ず服用しましょう。
また口腔内は細菌の多い環境にあるため、創部にバイ菌が入らないように口腔内を清潔に保ちましょう。

4. ドライソケット

通常は抜歯した部位を血餅(血の塊)がかさぶたのように塞いで、徐々に治癒していきます。
しかし何らかの原因でその血餅が剥がれ骨が露出し、強い痛みが生じます。

5. 皮下気腫

親知らずを分割するときに空気の圧力で回転する歯科用切削機械を使います。
このため、ごくまれに皮下組織に空気が入り込んで広範囲に腫脹を生じることがあります。

6.異常出血

通常抜歯後、数時間で出血は止まります。
抜歯後24時間は唾液に血が混じることがありますが、心配いりません。
ガーゼ等による圧迫が最も効果のある止血方法ですが、それでも出血が持続する場合は止血処置が必要です。

●抜歯の手術内容

親知らずがまっすぐに生えている場合には、他の歯と同じように抜歯することが可能です。
しかし、親知らずは斜めに生えてきたり、途中までしか生えてこないことが多く、この場合、通常よりも抜歯が難しくなります。
抜歯のため、歯肉を切開したり、歯や歯根を分割したり、骨を削るなどの外科的な手術が必要となることがあります。

1.麻酔

局所麻酔が主で、周辺の歯茎から麻酔(浸潤麻酔)を行います。
必要に応じて、やや長い針を使って、親知らずより奥の部分に麻酔をする場合(伝達麻酔)もあり、奥の部分に麻酔を行う方法のほうが強力です。
麻酔が一度効いてしまえば、痛みのある状況で処置をするということはありません。

2.歯茎の切開

親知らずが歯茎に埋っている場合、メスというナイフを使って歯茎の切開が行われます。
これはよく見えるようにするためと、歯が出てくるスペースを十分に確保するためです。

3.粘膜の剥離

切開後、歯ぐきを骨よりはがし、埋まっている歯をむき出しにします。

4.骨の削除

歯の一番膨らんでいるところが骨の中に埋まっている場合など、歯の周りの骨を、歯が出てきやすいように一部取り除きます。

5.歯の分割

歯の出てくる方向に、前の歯がぶつかってしまう場合には、抜くときにぶつからないように親知らずの歯の頭を削ります。
傾きが大きいときは、歯を削って2つや3つに分割することもあります。

6. 歯を抜く

歯を分割した場合は、まず頭の部分から抜き、次に根元の部分を抜きます。

7.抜いた場所の掃除

8.歯茎の縫合

かさぶたが出来ることは歯茎を治す重要な過程ですので、糸で傷口を縫う(縫合)ことでかさぶたができやすい環境にします。
穴が開いた箇所がかさぶたになり歯茎が盛ることで、治癒します歯を抜いた後の穴(抜歯窩)に細菌の増殖を防ぐための抗生剤・止血剤(白いスポンジ状のもの)を入れる場合もあります。
通常1~2週間後に糸を抜きます。

9.止血

抜歯後は15~30分程ガーゼを強く噛んでもらい、止血を行います。
血液をサラサラにする薬を飲んでいる方は血が止まりにくいため、長めにガーゼを噛むようにご注意いただきます。

智歯の抜歯ナビゲーションから

●抜歯後の注意は?

1.出血について

親知らずを抜歯すると、歯が生えていた部分に穴が空きますが、この穴に血餅(ゼリー状のかさぶた)ができるまでは出血しやすい状態にあります。
抜歯後、清潔なガーゼを15~30分ほど噛んで頂き、血を止めていきます (圧迫止血) 。
抜歯を行った日は1日唾液ににじむ程度の出血は続きます。
また、飲酒や激しい運動、長時間の入浴など、血行がよくなる行為は出血を促してしまいますので、抜歯当日は控えるようにしましょう。
出血が気になって、親知らずを抜いてできた穴を舌や指で触ってしまう人がいますが、これはやめてください。
穴をふさぐ役割をする血餅が取れて、さらに出血する原因となってしまいます。
また、何度もうがいをするのもいけません。
うがいによっても、血餅が剥がれてしまうことがあるからです。
血餅が取れると治癒が遅れるだけでなく、傷口から細菌感染して炎症を起こすリスクもあります。

2.痛みについて

親知らずの抜歯後、麻酔が切れると痛みが出てくることがあります。
その際は、痛み止めの薬を歯医者さんに指示されたとおりに飲むようにしてください。
通常であれば、3日~1週間ほどで痛みはなくなっていきますので、必要以上に心配することはありません。
また、1か月は違和感が続くことがあります。

3.腫れについて

親知らずの抜歯後、頬や歯茎が腫れることがあり、抜歯後2~3日後がピークとなります。
腫れた場合は、抜歯当日のみ水で濡らしたタオルにて軽く冷やしてください。
ただし、冷やしすぎは、血行が悪くなり、かえって治りにくくなるため冷却ジェルシートや保冷剤等で冷やすのはやめましょう。
通常であれば、3日~1週間ほどで腫れは収まっていきますので、必要以上に心配することはありません。

4.お薬について

担当の先生の指示通り服薬してください。
万が一、薬を飲んで異常が出た場合には服薬を一旦辞め、担当医の先生に連絡してください。

●最後に

一度歯医者さんに行って、先生にどのように親知らずが生えているのか確認してもらい、抜く必要があるのか聞いてみましょう。

歯科医師 大野 真季

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噛める入れ歯の作り方

皆さま、こんにちは。
暑さ厳しい折、いかがお過ごしでしょうか。
朝夕は少し涼しくなり過ごしやすくなって来たように感じますが、夏の疲れが出てくる頃ですので、お体にお気をつけてお過ごしください。

今回は入れ歯の作り方についてお話させていただきます。
入れ歯は失った歯を補う治療法の1つとしてあげられますが、そもそも歯の喪失は、年齢が高くなるほど進み、高齢者では歯のない人が多くなります。
左下グラフは2016年に行われた全国調査(歯科疾患実態調査)における一人あたりの歯の数(一人平均現在歯数)を年齢階級別に示したものですが、高年齢層ほど値が低く
後期高齢者(75歳~)では、本来持っている歯の数(28本)の半数近くが失われています。
(後期高齢者で20本以上の歯を持つ人は46%です。)

右上グラフは歯の数の平均値を年齢階級別に示したものです。
1980年代以降は増加傾向にあります。
たとえば60歳前後(55~64歳)に注目すると、1975年では14本でしたが、2016年には24本まで増加しています。

〇義歯の使用率

以上のことより平均残存歯数は近年増加傾向にありますが、何らかの補綴物(ブリッジ・部分入れ歯・総入れ歯)を使っている人の割合は年齢とともに高く、後期高齢者では84%に達します。
義歯の種類別に内訳をみますと、歯の喪失が進むにつれて、ブリッジ→部分入れ歯→総入れ歯と、より大きな義歯を使用する状況が窺え、後期高齢者では約3割の人が総入れ歯を使用しています。

〇歯の補い方

失った歯の補い方の種類としては、ブリッジ、入れ歯、インプラントがあります。
保険内の治療であればブリッジや入れ歯、保険外であればインプラントで補います。
ただしブリッジや義歯は保険診療外のものもあります。
また2020年4月より、生まれつき永久歯が生えてこない先天性欠如歯が6本以上ある場合、公的医療保険適用の元、インプラント治療を受けることが出来るようになりました。

〇義歯の種類

全部の歯がない場合は全部床義歯、少数歯欠損の場合は部分床義歯を作ります。


      。

保険適応・適応外の義歯の違いに関しては当院のHPを参照ください。

義歯・入れ歯のページを見る 

〇全部床義歯の作り方

【口腔内診査】

適切な義歯の形態把握のためには解剖学的、生理学的知識が必要となります。

概形印象による研究用模型製作

既製トレーにて型どりを行います。
出来上がった模型を使用し上図の各解剖学的ランドマークを元に診査・診断を行い、義歯床外形を設計し、個人にあったトレーを製作することを目的に行います。

個人トレー

【精密印象、筋圧形成】

個人トレーにて、より精密に型どりを行います。
この型どりの際には患者さんに、頬や口唇、舌を動かしていただき機能運動時における入れ歯の形態を記録していきます。
これを筋圧形成または辺縁形成といいます。

〈筋圧形成の意義〉
義歯床辺縁位置や厚さなどを生体の筋活動に調和させるために行います。
無歯顎の場合には筋肉の動きは義歯の離脱に大きく関係し、可能な限り床面積を増やし最大限の吸着を得ることが必要となります。

【咬合床製作】

精密印象によって作業用模型が作られます。
この作業用模型上で咬合床という失われた咬み合わせを再構築する為の装置を上下顎に合わせて作ります。
この段階での粘膜部はレジンという堅い材料でできており(他種類あり)、後の咬合面に置き換わる部分は熱で軟らかく出来るワックスで出来ています。

【咬合採得手順】

①上前歯豊隆(リップサポート)の決定
②仮想咬合平面の決定
③咬合高径の決定
④下顎位の決定

入れ歯での咬み合わせの位置を決めていきます。
元々お使いの義歯があれば参考にする場合もありますが、1から義歯を作る場合はこちらで形態学的、生理的、機能的要素を加味した上下顎の位置を決めていく必要があります。
①では上の前歯の張り具合を決定し②では上の義歯の前方、側方から見た位置を決定し③では上下義歯の垂直的、④水平的な位置を決定していきます。
また作業を進めていく中でエラーが出ていないかワンステップごとに確認しながら行います。
エラーが出た場合は前ステップへ戻り修正を行います。
咬み合わせが定まれば、人工歯配列のための正中線(顔の真ん中を示す線)などの表示線を記入し、上下の咬合床が動かないように固定します。
以上で咬合採得は終了です。

【技工作業】

作業用模型および咬合採得で用いた咬合床を咬合器に取り付けて人工の歯を並べていきます。
咬合器を用いる目的としては、生体外で顎の位置や運動を再現し生体に調和した義歯作製をする為です。

人工歯の種類は、材質、色調、形態と大きさで分けられます。
材質の違いで陶歯、レジン歯、硬質レジン歯、金属歯等で分けられ、色調は皮膚、目、髪の毛の色を参考にします。
また形態や大きさなどは性別、個性、年齢を参考にし、人工歯排列を行います。

【試適】

完成前にワックスでできた仮の義歯を患者さんの口腔内に入れて実際に確認します。
義歯製作に際し、試適の段階で最も重要なものがリップサポートです。
次いで咬合平面、咬合高径、下顎位と言われています。

〔試適チェックポイント〕

・人工歯の選択が正しいか
・前歯部の排列
・咬合高径のチェック
・臼歯(奥歯)の排列
・水平的な咬合関係のチェック
・もう一度床縁の位置、辺縁形態のチェック

【完成】

【義歯調整】

まずは慣れるまで一週間ほどお使いいただき、痛みが出るようでしたら、強く当たっている部分などを削り、徐々にお口に合うよう調整していきます。

【メンテナンス】

3~4ヶ月に一度お口の中と義歯のメンテナンスをさせていただきます。

〇義歯のお手入れ方法

毎食後、義歯を外した状態で歯磨きを行い、入れ歯もお口の中と同様に入れ歯専用の歯ブラシまたは普通の歯ブラシを用いて清潔な状態を保つように
してください。
また寝るときは外していただき、清潔なお水の中で保存してください。
噛む力が強い方や、残っている歯に負担がかかってしまうような方など患者様によっては寝るときも義歯の装着をしていただくことがあります。
現在お使いの入れ歯に痛みがある、咬み合わせが悪い、食事中に動くなどの症状がある場合は歯科医師による調整が必要となりますので、お困りのことがありましたら一度歯科医院への受診をお勧めいたします。
また、快適に使用できていた入れ歯でも、使っているうちにすり減ったり、入れ歯を支える骨が減って粘膜と入れ歯の間に隙間ができるなど不具合が生じることがあります。
入れ歯は、歯科医師が定期的に調整を行うことで長く使用することができます。

本文の作成にあたり、東京医科歯科大学 高齢者歯科学 水口俊介教授はじめ多くの指導員の方より熱心なご指導を受け賜わりました。
有床義歯に関する基礎知識の再確認および臨床における正確な筋圧形成の会得の為の貴重な機会をいただき、心から感謝いたします。

歯科医師 小松リナ

(参考文献)
歯の喪失の実態 | e-ヘルスネット(厚生労働省) (mhlw.go.jp) 安藤雄一先生
・きちんと確実にできる全部床義歯の印象
・きちんと確実にできる全部床義歯の咬合採得
・きちんと確実にできる全部床義歯の試適・装着
・東京医科歯科大学歯科同窓会学術部 C.D.E 実習コース 参考資料より

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子供を虫歯にさせない為にできる事

こんにちは。
色とりどりの紫陽花に、梅雨の訪れを感じる季節となりました。
皆さまいかがお過ごしでしょうか。

6月4日は6(む)と4(し)の語呂合わせで「虫歯予防の日」と言われています。
今回は小児の虫歯予防についてご紹介させていただきたいと思います。

虫歯は、細菌因子、宿主因子、食餌因子の全て揃って発生すると言われています(Keyesの病因論)。
特に虫歯になりやすくかつ進行しやすい乳歯や幼若永久歯(生えて間もない、根っこが完全に出来上がっていない永久歯)の虫歯予防を図るためには細菌因子、食餌因子、宿主因子のそれぞれについて手段を講じる必要があります。

【細菌に関連する虫歯予防】

(1)ミュータンスレンサ球菌(虫歯菌)の伝播抑制
ミュータンスレンサ球菌は、多くの場合養育者を介して小児の口腔内に感染します。その後スクロール(ショ糖)を基質として粘着性グルカンを産生し、歯面に強固に付着することで定着します。
口腔内にまだ歯が生えていなければ、ミュータンスレンサ球菌が一時的に口腔内に存在しても定着することはないが、乳歯の数が多くなるに従って定着しやすくなります。
ミュータンスレンサ球菌がいつ定着したかは通常わかりませんので、歯が萌出したら保護者が歯ブラシを使って小児の歯を磨くようにしましょう。

(2)デンタルプラークの形成抑制
デンタルプラーク(汚れ)をそのままにしておくとエナメル質や象牙質の脱灰が生じやすくなります。
デンタルプラークをブラッシングやフロッシング、歯科医院での歯面清掃といった方法で機械的に除去し、成熟化を防ぐ必要があります。

口腔清掃(歯口清掃法)

・歯磨きをいつ行うか

歯磨きは三食の食事及び間食直後に行うことが望ましいですが、特に重要なのは夕食後です。
就寝時は唾液の分泌が低下するため、もしこの間にデンタルプラークや食物残渣が口腔内にあると、長時間唾液による自浄作用を受けることなく残存し、齲蝕の発生リスクが増大します。

・適切な歯磨き法

小児に適した歯磨き法としましては、簡単で、かつ歯面及び咬合面の施工除去効果が高いスクラビング法(以下で説明します)と呼ばれるものが推奨されています。
小児の成長や理解度によっては、操作の簡便なフォーンズ法を選択するのも良いとされています。

《スクラビング法》

〜スクラビング法の磨き方〜
1)歯ブラシの毛先を歯面に垂直に当て、歯肉辺縁部にも軽く接触させます。
2)近遠心的方向には、6mmほどのスクロールで往復運動します。
3)前歯部の口蓋・舌側歯面は歯ブラシを縦にして1歯ずつ小刻みに動かします。
4)咬合面は前後に小さく振動を与えて清掃し、最後方臼歯咬合面に毛先を十分到達させます。
5)1歯につき10回磨きます。

《フォーンズ法》

〜フォーンズ法の磨き方〜
唇(頬)側は上下の歯を軽く咬み、毛先を直角に当て、小さく縁を描くようにしながら磨きます。
舌側は前後に往復運動します。

・歯ブラシの選択と交換時期

毛が広がり始めたら交換するか、毛が広がらなくても1か月に一度くらいの割合で交換すると良いです。

・歯磨き粉について

近年市販されているほとんどの歯磨剤にはフッ化物が配合されており、ブラッシングの際に用いると齲蝕予防効果があるため使用が推奨されています。
年齢によって推奨されるフッ化物配合歯磨剤のフッ素濃度と使用量が異なりますので注意しましょう。

年齢 使用量 歯磨剤のフッ素濃度
歯の萌出時期〜2歳 切った爪程度の少量 500ppm(泡状歯磨剤であれば1000ppmでも可)
3〜5歳 5mm以下 500ppm(泡状またはMFP歯磨剤であれば1000ppmでの可)
6〜14歳 1cm程度 1000ppm
15歳以上 2cm程度 1000ppm

※MFP:モノフルオロリン酸ナトリウム

・フロッシング

虫歯のなりやすい隣接面の清掃は、歯ブラシだけでは十分ではないため、フロスの使用が極めて重要です。
デンタルフロスにホルダーがついたタイプは比較的扱いやすいので、是非使ってみてください。

・洗口法

水や薬剤を含む洗口液を口に含み、ブクブクうがいをして吐き出すこと洗口法と言います。
近年はデンタルリンス(マウスウォッシュ)も市販されていますが、歯磨きの補助的手段にすぎず、小児への使用には界面活性剤やアルコールを含む製品も多いため注意が必要です。

【食事・生活習慣に関連する齲蝕予防】

〜Stephanカーブ〜

糖質を含む食品を摂取すると、歯面上の最近によって酸が産生され、pHが低下します。
歯の表面は酸性環境になり、エナメル質の脱灰が生じます。
その後一定時間をかけ、唾液の緩衝作用、自浄作用によりpHが中性の状態に戻ると、エナメル質表面では再石灰化が起こります。
歯は脱灰と再石灰化を繰り返して健全に維持されていますが、生活習慣の状況によっては、歯が酸性環境にある時間が長くなって齲蝕が発生しやすくなります。
ダラダラ食べ(常にだらだらと時間をかけて食べ続けること)をしていると脱灰時間が長くなり、再石灰化が追いつかず、虫歯ができやすくなります。
だらだら食べは控え、時間を決めてメリハリをつけておやつやご飯を食べるようにすると良いですね。

【歯に関連する虫歯予防】

(1)フッ化物の利用

フッ素は歯の表面のエナメル質の結晶構造を変化させ、酸による脱灰を抑制することができるために広く利用されています。
乳歯や幼若永久歯は成熟永久歯と比べて、構造が未熟なため、耐酸性に劣りますが、フッ素を取り込みやすいです。

1)フッ素配合歯磨き剤

フッ化物配合歯磨剤の予防効果を十分に発揮させるためには適切な量の歯磨剤を用いて、歯磨き後のうがいは10-15mlの水で1回うがいをします。その後1―2時間は飲食を控えます。特に就寝前に使うと効果的です。

2)フッ化物歯面塗布

歯科医院で高濃度のフッ素を歯に直接塗布する方法です。
萌出直後の歯に対して行うのが最も効果的と言われています。
虫歯に最も罹患しやすいのは歯が萌出してから1年6か月までであると言われているため萌出直後からフッ化物歯面歯面塗布を実施する必要があります。
これは、萌出して間もない歯は、反応性が高く、フッ化物塗布による歯の表層へのフッ素の取り込み量が大きいからです。繰り返し塗布することで効果が持続します。

3)フッ素洗口

4歳以降からフッ素洗口液でブクブクうがいをする方法です。

(2)シーラント

虫歯になりやすい溝を事前に埋めてその部分の虫歯の発生を防ぐ方法です。
特に萌出直後の幼若永久歯は、エナメル質の溝の形態が複雑で深いことから、フッ化物歯面塗布と併用してシーラントを行うことによって高い齲蝕予防効果が期待できます。
しかしながら、シーラントはかけてしまったり取れてしまう場合がありますので、定期的に歯科医院でのチェックを行う必要があります。

今回は子供の虫歯予防についてご紹介しました。
お子様が何歳であっても歯は食べることに直結する大切な組織ですので、今からできることを始めていきましょう。

歯科医師 丹羽 佳世子

参考文献
小児歯科学ベーシックテキスト 第2版 永末書店

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