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顎の病気~特発性下顎頭吸収~
こんにちは。
4月も下旬になりを過ぎ夜は肌寒い日もあり、日中は汗ばむような陽気の日も増えてきましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
季節の変わり目や環境の変化、精神的なストレスにより、無意識に食いしばってしまい顎が痛くなりやすい時期でもあります。
さて、今回はそんな顎に症状を呈する病気「特発性下顎頭吸収」についてご紹介させていただきます。
今まで分からない事が多かった疾患ではありますが、少しずつ研究が進み原因が解明されています。
また、この病気に関連する疾患についてもこれを機に皆様にお伝え出来ればと思っております。
・特発性下顎頭吸収とは
成長期にも関わらず下顎頭の著しい吸収・変形が生じ、下顎枝窩の減少が生じる極めて稀な病態です。
無痛性に進行することが多く、下顎枝高径の短縮に伴う下顎骨の後退や二次的全歯部開咬が顕著になって初めて歯科を受診することも少なくないです。
2009年に難治性疾患に認定され、発生機序や原因については不明な点が多いですが、下顎頭吸収の進行を回避し重症化を防ぐためには、突発性下顎頭吸収を正しく鑑別する知識と検査体制の確立が不可欠です。
・原因
未だ不明な点が多いですが、性別、年齢、ホルモン異常などの内的因子に加え、顎離断術、顎顔面外傷、顎関節円板障害、口腔習癖などの外的因子が必須条件になっていることが明らかになってきています。
・内的因子
10代、20代の女性に多く発現します。
特発性下顎頭吸収の発現に関する重要な因子として17βエストラジオール(エストロゲンを構成する主要成分の一つで妊娠、出産との関わりが強い)の血中濃度の低下が挙げられます。
さらに、女性の顎関節にはエストロゲン受容体が多く存在し、エストロゲンの分泌低下が関節組織に負の影響を与えている可能性があると言われています。
・外的因子
特発性下顎頭吸収の発症に関連が深い外的因子には、外科的矯正治療経験、顎顔面外傷、顎関節円板障害、口腔習癖などが挙げられます。
外科的矯正経験については、下顎頭吸収を発症した患者の多くが顎離断術を経験しています。
~顎関節疾患~
特発性下顎頭吸収以外にも顎関節に症状を呈する疾患はいくつかあります。
外傷や炎症、腫瘍、顎関節症がありますが、今回は内的因子やホルモンに関係のある先天障害・発育障害についてご紹介させて頂きます。
【先天障害・発育障害】
①無形成、減形成
顎関節の無形成または減形成は、下顎の減発育または不全発育の一症候です。
隣接する器官(中耳、外耳、下顎骨)の形成不全も合併して発現することが多いです。
②第一・第二鰓弓症候群
第一鰓弓と第二鰓弓由来の骨と軟組織の異常を主な症状とする先天性の形成異常症候群です。
症状の現れ方に程度の差があります。
ほとんどが片側性で、下顎骨の減形成、顎関節の形成不全、咬筋・側頭筋の形成不全、表情筋の麻痺が見られます。
耳介の変形、すなわち小耳症、副耳が見られます。
③Treacher-Collins症候群
第一鰓弓由来の器官の発育不全による障害です。
上顎骨、頬骨ならびに下顎骨の発育不全が見られます。
これに伴って顎関節突起、筋突起の形成不全が現れます。
さらに合併症として眼瞼および耳介などの変形が出現します。
④Goldenhar症候群
眼球類皮腫などの眼の異常を伴った第一・第二鰓弓症候群の亜型で、脊椎の奇形を合併します。
⑤関節突起肥大
下顎頭の後天性の過剰発育で、非腫瘍性病変です。
原因不明で、外傷、脱臼または炎症などが刺激因子になると考えられています。
関節突起肥大は片側性に発症し、患側の下顎の伸長により咬合不全ならびに顔貌非対称となります。
顎関節に雑音、仏痛、下顎頭の運動障害に起因する開口障害が現れることがあります。
【顎関節の外傷】
①外傷性顎関節炎
下顎骨に衝撃的な外力が負荷され、下顎頭に強い外力が及ぶと顎関節の軟組織構造が炎症状態を引き起こすことがあります。
顎関節の自発痛または運動時として自覚され、仏痛に伴う防御反応によって開口障害が起こります。
下顎の健側偏位によって咬合不全が生じます。
②顎関節脱臼
過剰な関節運動の結果、骨性構造が関節の可動範囲を逸脱し、復位出来ず偏位状態で固定することをいいます。
顎関節では下顎頭の過剰な前方滑走運動によって関節隆起を前方に逸脱し復位できなくなり開口状態となり固定した状態、いわゆる顎が外れた状態です。
脱臼しやすい解剖学的な特徴があると発生しやすいと指摘されています。
③関節突起骨折
関節突起部に発生する骨折の下顎骨骨折全体に占める割合は比較的大きいです。
関節突起骨折では、オトガイ部など下顎の他部位に作用した外力が伝導し二次的に関節突起が骨折する頻度が高いです。
【炎症性病変】
①化膿性顎関節炎
下顎骨炎または骨髄炎からの波及により化膿性顎関節炎が発症することが多いです。
全身症状として、発熱、頭痛、全身倦怠などが現れます。局所症状としては、耳前部の自発痛、特に顎運動時の痛みが強いです。
進行すると外耳道部に瘻孔を生じ、排膿することがあります。
関節腔に膿や浸出液の貯留がみられたり、関節内組織の浮腫性腫脹によって下顎頭が前方に押し出され、下顎全体が健側へ偏位するので咬合不全の状態となります。
②リウマチ性顎関節炎
全身の関節に炎症性病変が急性期と慢性期を反復し、長期にわたって関節構造が徐々に破壊される病変です。
全身的な結合組織の炎症性疾患として顎関節にも症状を現します。
顎関節の運動痛、顎関節部の圧縮が見られます。また、咀嚼筋群のこわばり感が現れます。
下顎頭の変形、骨の破壊、吸収、萎縮が現れ、開口障害が顕在化し、晩期においては顎関節強直症の状態となります。
下顎頭の吸収破壊に伴って下顎が後上方へ偏位して前歯部開咬などの咬合不全を示すことがある。
全身的には、発熱、全身倦怠、食欲不振、体重減少がみられます。
③変形性顎関節症
顎関節の関節円板および下顎頭関節面の繊維軟骨構造、関節隆起関節面の繊維軟骨様構造の破壊が生じる病変です。
日本では、本疾患を顎関節症Ⅳ型に分類されています。
この疾患は加齢に伴う軟骨や骨の代謝低下、低位咬合による慢性の外傷性因子などが増悪因子とされています。
顎運動時の顎関節雑音(クレピタス音)、関節痛並びに開口障害が主な症状となります。
・最後に
特発性下顎頭吸収は、発症要因についても危険因子についても未だ不明な点が多く、早期発見につながるような診断基準はありません。
また、発症後の対処法として、どのような治療法が最善であるかについても統一した見解はありません。
しかし、歯科を受診することで早期発見が出来ますので歯科検診にいらして下さい。
歯科医師 瀬津昂斗
2022年4月27日 カテゴリ:未分類
歯がしみるメカニズム
皆さまこんにちは。
3月になり朝晩はまだ寒い日もありますが、日中は日差しが春らしくなってきましたね。
季節の変わり目で、体調を崩される方も多いようです。
うがい手洗いなどをしっかりして、体調管理にお気をつけてお過ごしください。
歯がしみる経験をしたことはありますか?
冷たい物や温かい物を食べた時、歯ブラシの毛先でこすったときなどに起こったことがある方もいるかと思います。
今回は、歯がしみる痛みのメカニズムの一説を、最新の知見を踏まえてご紹介させていただきます。
まず、歯がしみる痛みを理解するためには、歯の構造を理解する必要があります。
歯は表面から順に、歯冠部ではエナメル質→象牙質→歯髄、歯根部ではセメント質→象牙質→歯髄で構成されています。(図1)
それぞれ簡単に説明すると、
・エナメル質:人体で最も硬い組織で、厚さは2~3㎜
・象牙質:動物界に共通して存在する組織で、生物が持つ歯としての必須条件
・セメント質:骨と同じような組成・硬さの組織
・歯髄:種々の細胞(神経細胞の末端、線維芽細胞、未分化間葉細胞など)や血管、その他コラーゲン線維などが存在する柔らかい組織であり、所謂「神経の部屋」
となります。
図1(https://www.lion-dent-health.or.jp/labo/article/knowledge/01.htm)
象牙質の表面には象牙細管と呼ばれる無数の穴が開いており、その穴は管となって歯髄に到達しています。(図2)
この象牙細管内は、組織液という液体で満たされています。
虫歯、歯ブラシによる摩耗、歯ぎしりによる咬耗などにより、エナメル質およびセメント質がなくなると象牙質が露出します。
むき出しになって穴だらけの象牙質に、甘いものや冷たいもの、歯ブラシ、空気などの刺激が加わると、鋭い痛みが生じます。
これが、歯がしみる痛みです。
図2(https://systema.lion.co.jp/shishubyo/glossary/c_chikakukabin.htm)
では、神経の通っていない象牙質表面に刺激が加わっただけで痛みが生じるのはなぜでしょうか?
その謎を説明するのが、動水力学説(hydro dynamic theory)です。
先ほども述べましたが、象牙質表面には組織液で満たされた象牙細管の入口が開いています。
象牙質表面への刺激は象牙細管内に浸透圧差を生じ、これにより象牙細管内の組織液が移動します。
そして浸透圧差により移動した組織液の流れが、歯髄に存在する神経を刺激して痛みとなるのです。(図3)
たとえば、チョコレートを食べたときは、チョコレートに含まれる糖分により象牙質表面の浸透圧が高張となり、象牙細管内の組織液は表面側に引っ張られ、痛みが生じるのです。
図3(https://www.lion-dent-health.or.jp/labo/article/trouble/03.htm)
また最近では、象牙質と歯髄の間に存在する象牙芽細胞(odontoblast)という細胞が、浸透圧差により移動した組織液の流れを感知し、さらにその情報を神経に伝達することが示されつつあります。
これを、象牙芽細胞‐動水力学受容体モデル(Odontoblast receptor hydrodynamic model)と言います。(図4)
図4(歯界展望vol.138 No.6 p.1123 澁川ら)
では、神経細胞や象牙芽細胞がどうやって組織液の流れを感知するのでしょうか?
それは、細胞の表面(細胞膜)に存在するイオンチャネルという名前のタンパク質が担っています。(図4)
イオンチャネルは普段は閉じていますが、様々な刺激(温度、酸、細胞膜変形、薬など)により開きます。(図5)
イオンチャネルが開くと、ナトリウムイオンやカルシウムイオンなどのイオンが細胞内に流入します。
このイオンが電気信号となり、脳まで痛みの信号を伝導・伝達するのです。
図5(https://www.biophys.jp/highschool/A-10.html)
歯がしみる痛みでは、TRPチャネルおよびPiezo1チャネルという種類のイオンチャネルが、組織液の移動による細胞膜の変形を感知しています。(図4)
ちなみに、TRPチャネルおよびPiezoチャネルの発見は2021年のノーベル医学・生理学賞にも選ばれています。
2021年ノーベル医学・生理学賞の受賞者、デービッド・ジュリアス博士(左)とアーデン・パタポティアン博士(右)
(https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/2021/summary/)
難しい部分もあったかと思いますが、歯痛の理解には欠かせない話ですので、ご説明させていただきました。
今回の記事が少しでも歯痛に関する理解への一助になれば幸いです。
最後になりますが、12月より当院にて臨床研修をさせていただいております、倉島竜哉と申します。
一年間の研修も3月で修了です。
この一年間、臨床研修をやらせていただき、歯科医師として、そして人間としても成長できたのではないかなと感じています。
この一年間で感じたことを忘れずに、これからの歯科医師としての人生を歩んでいきたいと思います。
ありがとうございました。
歯科医師 倉島竜哉
参考文献
・組織学・口腔組織学 第4版 わかば出版
・基礎歯科生理学 第7版 医歯薬出版
・歯科展望 vol.136 No.6 2021-12 医歯薬出版
・保存修復学 第5版 永末出版
2022年3月14日 カテゴリ:未分類
歯周病と喫煙の関係性
皆さまこんにちは。
今年は東京でも積雪があり、例年よりも寒い日が続いていますが体調などを崩されていないでしょうか?
空気もとても乾燥をしていますが、空気が澄んでいるこの時期は、雪化粧をした富士山が都内からでもとても綺麗に見えて心が和みます。
コロナはまだまだ続き落ち着かない日々ですが、お風邪を引かれてませんようお気をつけてお過ごしください。
本日は歯周病と喫煙の関係性について、少しお話しさせていただこうと思います。
現在歯周病は 30 歳以上の成人の約 80%がかかっていると言われています。
さらに驚くことに、人類史上最も感染者数の多い感染症として 2001 年にギネス記録に登録されており、20年経った現在もその記録は破られていません。
歯周病って?
名前は聞いたことがあるけれど、実際どんな病気なのかあまりご存じない方も多いのではないでしょうか?
はじめに、簡単ではありますが歯周病について説明したいと思います。
歯周病は歯周組織に生じる炎症性疾患の総称です。
歯周組織とは歯の周りの歯ぐき(歯肉)や歯を支える骨(歯槽骨)などのことを指します。
歯周病になると、歯肉の辺縁が炎症を引き起こし赤くなったり腫れたりします。
さらに進行すると、膿がでたり歯槽骨が吸収していき歯が動揺してきて、最終的には歯を抜かなければならなくなってしまいます。
歯周病の原因
歯周病の原因はひとつではなく、細菌因子・宿主因子・環境因子がそれぞれ影響しあって発症する多因子性疾患とされています。
①細菌因子
お口の中には 700 種以上の細菌がいます。
このうち歯周病の発症・進行に関与するとされる細菌を歯周病原菌細菌とよびます。
歯ブラシが充分でなかったりすると、この細菌たちが粘着性の物質を作り出し、歯の表面にくっつきます。
これがいわゆる歯垢(プラーク)です。
これは、とても粘着性が強いのでうがいをした程度では落ちません。
また、特定の歯周病原細菌がもつ酵素は歯周組織を直接的に破壊するといわれています。
②宿主因子
宿主とは細菌に寄生されるもの、すなわち患者さんご自身の身体のことです。
これには、お口の中のことが原因とされる局所的因子と年齢、性別、体質、全身疾患が原因となる全身的因子があります。
③環境因子
歯周病は生活習慣病の1つとされ、歯周病の発症・進行には、喫煙、ストレス、食生活(栄養状態)などが影響を与えます。
歯周病と喫煙
環境因子の中では喫煙は歯周病の発症や進行に影響を与える最大のリスクファクターであるとされています。
喫煙は、全身の臓器に大きな影響を及ぼし、がんや心臓血管疾患、慢性閉塞性肺疾患など歯周病だけでなく、多くの生活習慣病の重要なリスクファクターとなり
ます。
タバコの中には、数千もの化学物質が含まれていて、そのうちニコチン、タール、一酸化炭素の最大有害物質をはじめ 200 種類以上の有害物質が含まれており、60 種類以上の物質に発癌性があります。
喫煙者は口臭、ヤニによる着色だけでなく、歯周病にかかりやすく、重症化しやすいので、治療しても治りにくいことがわかっています。
喫煙がお口に与える影響
喫煙により有害物質にさらされる最初の臓器はお口の中です。
ニコチンは、皮膚や粘膜に素早く吸収され、血管収縮を引き起こし、血流の減少が起こる結果、歯肉は酸素が少ない状態になり、歯周ポケット内に歯周病原細菌が生活しやすい環境になってしまいます。
さらに、ニコチンは体の免疫機能も狂わせるため、喫煙をしない人と比べて喫煙者は歯周病の治療をしても治りにくくなってしまいます。
喫煙者のお口の中の特徴として、着色、歯肉の黒色化(メラニン沈着)、口臭、歯肉が硬くなる、味覚低下が代表的なものとしてあげられます。
しかし、喫煙者では歯肉の腫れや出血などの炎症兆候が見た目以上に抑えられ、歯周病の初期症状を患者さんご自身が気づかず、加えて非喫煙者と比べて進行が速いため、重症の歯周病になって初めて気づくケースも少なくありません。
また、歯周病だけでなくインプラント治療や口腔がんにおいても大きなリスクファクターとなることがわかっています。
禁煙の効果
現在、歯周病のみならず全身疾患への対策として禁煙の必要性がうたわれています。
実際、国によって、喫煙に関する目標値も定められています。(健康日本 21)
禁煙することで、歯周組織は本来の免疫機能を取り戻し、歯肉は本来の健康的な状態になります。
そしてなにより、お口の中の健康だけでなく、全身の健康にとっても大きな病気にかかるリスクを減らすことができます。
禁煙をすることは簡単なことではありませんが、専門家による禁煙サポートや周囲の人の力を借りてぜひ禁煙にチャレンジしてみてください。
最後になりますが、12 月より千代田ファーストビル歯科医院にて臨床研修をさせていただいております、研修医の西村仁希です。
6 年間大学で学んできた知識を活かし、患者さん一人ひとりに寄り添った丁寧な診療ができるよう研鑽を積んでいきたいと思います。
よろしくお願いいたします。
参考文献
臨床歯周病学 第3版
https://www.jacp.net/perio/about/
歯科医師 西村仁希
2022年1月26日 カテゴリ:未分類
味がわからない
~味覚障害の原因・治療~
皆さま、こんにちは。
10月も半ばを過ぎ、朝晩は徐々に肌寒い日も増えて参りましたがお変わりはないでしょうか?
日中はさわやかな風が心地良く、すすきやコスモスに秋の風情を感じる季節となりました。
一日の気温差が大きい日もありますので体調を崩さないようにお気を付けください。
連日の新型コロナウィルス感染症に関する報道にて、初期症状や後遺症にて味覚障害が発現されることを耳にされたことがあると思います。
今回はこの味覚障害に関するお話しをさせていただきます。
味覚の仕組みについては過去の記事をご覧ください。
(https://www.chiyoda1st.com/2020/03/味覚の仕組み.html)
味覚障害は障害部位別、原因別、症状別に分類されます。
〇障害部位別分類
味を感じるプロセスとして味覚はまず、食べ物に含まれる味物質(化学物質)が私たちの口の中に入り、舌に触れるところから始まります。
舌の上や側面には、乳頭と呼ばれるざらざらとした多数の突起があり、そこに味物質を感知する“味細胞”が集まっています。
味細胞の表面には味覚受容体が存在し、味物質を受け取ると、その情報は味細胞の内部をリレーし電気信号に変換されます。
さらに信号が神経細胞を通り、大脳に伝えられることで私たちは味を認識することができます。
このプロセスのどこかしらに不具合が生じることで味覚障害が発現します。
味覚の障害部位の分類から分岐し、原因別に分類されます。
〇亜鉛欠乏性味覚障害:
味覚の受容器である味細胞のターンオーバー(代謝)には微少元素である亜鉛(Zn)が関与しています。
亜鉛が低下することで正常な味細胞の発生が遅れ味覚障害を生じます。
さらに以下に分類されます。
ⅰ)食事性味覚障害 食事摂取量や偏食が原因と考えられるもの。
ⅱ)薬剤性味覚障害 降圧剤や精神安定剤などの副作用によるもの。
ⅲ)全身疾患性味覚障害 腎不全や肝不全などの疾患が原因のもの。
1. 下記の症状/検査所見のうち1項目以上を満たす 1) 臨床症状・所見 皮膚炎,口内炎,脱毛症,褥瘡(難治性),食欲低下,発育障害(小児で体重増加 不良,低身長),性腺機能不全,易感染性,味覚障害,貧血,不妊症 2) 検査所見 血清アルカリホスファターゼ(ALP)低値 注:肝疾患,骨粗しょう症,慢性腎不全,糖尿病,うっ血性心不全などでは亜鉛欠乏であっても低値 を示さないことがある. 2. 上記症状の原因となる他の疾患が否定される 3. 血清亜鉛値 3-1:60µg/dL未満:亜鉛欠乏症 3-2:60 ~ 80µg/dL未満:潜在性亜鉛欠乏 血清亜鉛は,早朝空腹時に測定することが望ましい 4. 亜鉛を補充することにより症状が改善する (亜鉛欠乏症の診療指針2018より) |
〇突発性味覚障害:
血清亜鉛値は正常値であるにも関わらず原因が明確ではないもの。
〔局所的原因〕
・不適合補綴物(詰め物、かぶせ物)
異種金属の詰め物同士が接触すると微少電流が流れ、味覚障害を発現することがありま
す。
このような場合は金属アレルギーの検査を行うと共に原因となる補綴物を撤去する必要があります。
・味孔閉鎖
舌の上の汚れ(舌苔)などにより味孔が閉鎖し、味物質が味細胞に到達しないために起こります。
舌苔を確認し、定期的に舌ブラシを用いて機械的に清掃してください。
・舌炎
舌炎を発症すると味蕾が障害されて味覚障害を起こします。
代表的なものとしては不潔な義歯の使用や抗菌薬の長期投与あるいは免疫不全によって生じる真菌の一種であるカンジダ菌が感染して生じる口腔カンジダ症があります。
液検査や培養検査を実施し口腔内の清掃や抗真菌薬の処方を行います。
・嗅覚機能低下
感冒(かぜ)、花粉症などの鼻疾患により嗅覚の低下が原因となる味覚障害。
血液検査、 アレルギー検査を行い味覚由来の障害と区別する必要があります。
まずは鼻疾患の治療を行い、治癒後に味覚症状が改善されない場合は味覚検査を行う必要があります。
・神経損傷
口腔内外領域の手術時における神経損傷によりおこる味覚障害。
味覚検査と共に知覚検査を行う必要もあります。(障害部位によって全身的原因にも含まれます。)
・放射線治療後
舌癌や歯肉癌などの口腔がんや咽頭がんの多くは扁平上皮癌でしばしば放射線療法が行われます。
この際の副作用(急性障害)として重篤な口内炎や味覚障害が起こります。
これらの症状は数か月で緩和されると言われています。
〔全身的原因〕
・唾液分泌障害 口腔乾燥症
シェーグレン症候群、薬剤性、咀嚼能力低下、加齢、放射線治療後の機能障害などによる唾液分泌量の低下が原因となるもの。
唾液分泌量、涙液分泌量、血液検査が必要となります。
・貧血
悪性貧血によるHunter舌炎や鉄欠乏性貧血による平滑舌などが原因で生じるもの。
血液検査を行います。
・心因性
うつ病やヒステリーなどによる精神疾患が原因とされるもの。
服用薬剤の問診や心療内科との連携が必要となります。
味覚障害が起こるとどのような症状が起こるのか?症状別分類を下記に示します。
①味覚減退:食べ物の味が本来よりも薄く感じる。
②自発性異常味覚:口腔内に食べ物がないにも関わらず、常に味がする。
③味覚消失:4基本味全て感じない。
④解離性味覚障害(孤立性無味症):4基本味のうち特定の味が消失している。
⑤異味症:食べ物本来の味と異なる。
⑥味覚錯誤(錯味症):特定の味を他の味と間違える。
⑦味覚過敏:食べ物本来の味より濃く感じる。
(*片側性無味症:舌の左右いずれか一側で味を感じない)
電気味覚検査…舌の味覚の伝達に関与する神経の障害部位を特定する目的で行う。
ろ紙ディスク法…支配神経別の障害部位の特定、解離性味覚障害などの特定の味がわからない味覚障害の検査も可能。
〇治療法
味覚障害の多くはその発症に亜鉛欠乏症が関わるため治療の第1選択は亜鉛補充療法が適用になります。
現在日本で認可されているポラプレジンク(プロマック)や酢酸亜鉛製剤(ノベルジン)の2種類が治療薬として処方されています。
また亜鉛の低値が認められない場合においても基礎疾患(慢性肝疾患、糖尿病、腎不全など)の所見・症状が改善する報告があるため亜鉛補充を考慮してもよいと〔亜鉛欠乏症の診療指針2018〕に記載がありました。
その他の味覚障害の治療法に関しては第1に原因の除去、生活指導、内服薬、漢方や外用薬の投与が検討されます。
例えばドライマウスの原因となる薬剤を使用している場合は中止あるいは減量、他剤への変更が可能か主治医や薬剤師と相談して検討する必要があります。
生活指導に関しては食べ物をしっかり咀嚼し、唾液分泌を促進することで唾液腺の機能を保持、改善できることを知っていただき、歯周病やう蝕の予防にも効果的であることを理解していただければなお良いと思います。
〇まとめ
味覚障害を生じると食の楽しみが減るだけではなく、食欲不振から栄養不足になったり味付けが濃くなるため、塩分や糖分を過剰摂取してしまい、栄養障害の危険性も高くなります。
味覚障害は歯科で対応できる場合もありますが、全身疾患が原因となることも多くある為、耳鼻咽喉科・内科・心療内科など他科との連携が大切になってきます。
以前と比較して味を感じにくくなった等でお困りの方がいらっしゃいましたら一度ご相談ください。
今回は一般的な味覚障害の原因や治療法についてお話させていただきました。
まだまだ未解明の部分も多い分野ですが、新型コロナウィルスによる味覚障害のメカニズムに関しても徐々に解明され始めています。
3月29日新型コロナウイルスの口内感染(3月25日 Nature Medicine オンライン掲載論文) | AASJホームページ
今後さらに研究が進み、新たな治療法が確立されることを願います。
歯科医師 小松 リナ
(参考文献:口腔内科学 第1版、基礎歯科生理学 第5版、耳鼻咽喉科・頭頸部外科91巻12号)
2021年10月21日 カテゴリ:未分類
歯内療法の極み〜歯内療法専門医・吉岡先生からのご寄稿〜
皆さまこんにちは。
今回は「歯を抜きたくない、なんとかして残したい!」と切に願った時の救世主とも言える、歯内療法専門医についてのお話しをさせていただきます。
一般歯科医院において対応できない難症例に遭遇した場合、より精度の高い診断および処置を行って下さるのが歯内療法専門医です。
そこで、今回は我々が大変お世話になっている歯内療法専門医の吉岡隆知先生に「歯内療法の極み」について執筆して頂きました。
吉岡隆知先生プロフィール
略歴
1991年 東京医科歯科大学歯学部卒業
1996年 東京医科歯科大学大学院修了 博士(歯学)
1996年 東京医科歯科大学歯学部付属病院医員
1997~2000年 日本学術振興会特別研究員
2000年 東京医科歯科大学助手
2007年 東京医科歯科大学助教
2010年 吉岡デンタルオフィス開業
主な所属・役職
東京医科歯科大学非常勤講師(2010年~)
日本歯科保存学会 専門医・認定医
日本歯内療法学会 専門医
Zeiss 公認インストラクター
医療法人社団白群会理事長
株式会社Toppy 代表
歯内療法症例検討会代表
歯内療法の極み
吉岡デンタルオフィス
吉岡隆知
1. はじめに
歯の根の治療を受けたことのある人は少なくないと思います。
歯の中をやすりのようなもので掃除する、等と言われて治療をしているはずです。
治療のために何回か通院が必要で、中には何ヶ月もかかっているかも知れません。
痛みが取れない、なかなか良くならない場合もあるでしょう。根の治療のことを「根管治療」と言います。日本では、保険治療での治療費が安いために根管治療はきわめて多く行われています。
安易に、と言ってもよいかも知れません。
海外では、ほとんどの国で根管治療は高価格です。根管治療になるような歯は抜歯されることもあるようです。
日本の根管治療数は世界一と言っても過言ではないと思います。
たとえばトルコでは根管治療した歯は一人あたり0.41本であるのに対し、日本では5.4本と、約13倍違います。
調査対象とする患者層が同じではないので、断定的なことはいえませんが、日本は世界的にも根管治療はやり過ぎと見られています。
むし歯が大きくて神経をとるようになったり、以前の治療が良くないので、やり直したりすることがありますが、どちらも根管治療です。
ネットでは「根幹」治療と書かれたりしていますが、「根管」が正しい表記です。
歯の中には神経や血管が入っている細い管のようなものがありますが、それが根管です。
下の写真が根管の一般的な形態です。
歯を酸に入れて軟らかくしてから特別な処理をすると、このように透明になって根管を観察できます。
根管にはインクなどをいれて見やすくしています。
これらの複雑な根管に対して行われるのが根管治療です。
歯科の病気というと、むし歯と歯周病はどなたでも聞いたことがあると思います。
治療は、むし歯を削って穴を補修すしたり、歯石を取ったり、あるいは治療後のメンテナンスをしたりします。
それ以外に親知らずなどを抜歯することもあるでしょう。ところが、根管治療のことはあまり有名ではないようです。
根管治療では根管の中を隅々まで綺麗に洗って(根管形成・根管清掃)、根管の空間を密封します(根管充填)。言葉で説明すればこれだけなのですが、根管の形態が複雑すぎて難しい治療になっています。歯科医師が治療するときに歯・根管の位置を誤認することも少なくありません。口が開かない、歯の向きなどにより、器具を入れること自体が困難な場合もあります。根管治療は言葉で説明する以上に難しくなります。
根管の処置は100%完璧に行われなくても、臨床的に問題にならない程度に行われれば治るのですが、それが達成できたことを客観的に判定する方法はありません。
治療の目標がわからないです。
症状はなくなっても、根管の清掃が終わっていないと根管充填できないし、根管充填していないとかぶせる治療に進めません。
根管治療では、使用する器材が話題になることがあります。
現代の根管治療にとってCBCTとマイクロスコープは外すことの出来ない装置です。
CBCTとは歯科用のCTで、極めて高解像度で歯と周囲組織の立体的な画像を提供してくれます。歯の治療というと、歯だけ見れば良いと思われるかもしれませんが、歯の根の周りの骨の情報も重要です。
通常のX線写真ではわからないものもCBCTでは明らかにしてくれます。
CBCTも様々な機種があるのですが、根管治療では高い解像度の装置で、最もよい条件で撮影すべきです。
得られた画像で診断が変わるからです。そして、根管形態は最高解像度のものでやっと見えるくらい細かいのです。
根の周りの影が歯の破折によるものか、炎症によるものかの診断で歯を残せるか抜歯になるか、結果が変わってきます。
CBCTの結果に基づいてマイクロスコープで見ながら治療をします。
マイクロスコープとは実体顕微鏡のことです。
マイクロスコープにも機種の違いはあるのですが、CBCTほどではないです。
それよりマイクロスコープで何を見るかが重要です。
マイクロスコーブを誰が使うかで結果が変わってきます。
CBCTで見える根管を見つけるために細く深く削っていかなければならないことがあります。
CBCT画像の解釈とその後のマイクロスコープでの治療には、そこに根管があってもおかしくないと判断する解剖学的な知識が必要になります。
例をお見せします。
初診時のCBCTです。
黄色矢印は前医により治療されていた根管です。赤矢印は発見されていなかった根管です。
この歯をマイクロスコープで観察します。
発見されてない根管は赤矢印の部分にあります。この矢印の部分を削っていくのは、経験がないと、怖いと思います。
別なところに穴をあけてしまうのではないか、と考えて、かなり躊躇すると思います。たしかに位置がずれてしまうと大変なことになります。
適切な方法で削っていくと、黄色矢印のように根管が見つかり、処置が出来ます。
根管治療で全ての問題が解決するわけではありません。
頻度は高くありませんが、治らない、あるいは治療後に再発する症例はあります。最初の根管治療がきちんとできていないと、再発する率は高くなると考えられます。
そのような場合には手術(逆根管治療)が行われます。
手術というと、患者さんはとても嫌がります。
成功率が高く治療回数も1回ですむので、かえって楽なのではないかと思うのですが。
手術では麻酔後に歯肉の中の病変部を取り除き、根の先からセメントを詰めます。
いわゆる膿の袋(歯根嚢胞)や複雑な根管形態が原因の場合に逆根管治療は有効です。
手術をせずに根管治療をやり直してもこれらに対処できません。
また、根管治療をやり直さなければならない場合、かぶせた歯を除去せずに逆根管治療を行うこともできます。
きれいな歯を入れたあとで歯が痛くなったり腫れてきたりすることがあり、逆根管治療で対応できることが多いです。
患者さんにとっても歯を作った歯科医師にとっても良い方法だと思います。
根管治療は、歯内療法という分野の一部門です。歯内療法には次の様な内容があります。
・痛みをとる
・原因歯を特定する
・歯の神経を守る(可逆性歯髄炎)
*守り切れない神経は除去して根管治療をする(抜髄)
*神経が死んでしまった場合も根管治療をする(感染根管治療)
*以前の治療が良くない場合にやり直す(再根管治療)
・治療した歯に不具合が生じたときに、その歯を救う(再治療、逆根管治療)
・むし歯や歯周病以外の歯の病変に対処する(歯根吸収、セメントーマなど)
・他院では抜歯と言われた歯でも何とかする
・ぶつけたりした歯を維持できるようにする
など
このうちの*をつけたものが根管治療です。
このような歯内療法を専門に治療するのが歯内療法専門医です。
歯を残したいと思ったら、歯内療法専門医に相談していただければ1番良い方法を提案してもらえると思います。
抜歯と宣告されたときに本当に抜歯しなければならないかどうか、ご相談ください。
他院で残すのは無理、と言われた歯でも残せる場合があります。
非歯原性歯痛
夏の日差しが眩しく耐え難い暑さが続きますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
無観客での開催が決定した東京オリンピックからもまだまだ目が離せません。
このような状況下ですが、試合に出ている選手たちの姿を見ると勇気を貰います。
・非歯原性歯痛とは
非歯原性歯痛とは、歯が原因ではなく生じる歯痛のことです。
歯が原因ではないため、なかなか症状が治らないまま歯科治療が長引いてしまうと、慢性化してしまい治りにくくなるので早い段階での診断が重要となってきます。
コロナ禍において、日々の日常で不安やストレスにより症状が悪化し、歯痛を主訴に来院される方が増えてきています。
この疾患で来院される方は、根管治療や伵合治療、抜歯をしたが痛みが続くなどを訴え来院される事が多いです。
・原因
非歯原性歯痛の種類は数多くありますが、発生機序は現時点で以下の3項目が考えられています。
①関連痛
収束、投射、末梢神経の分岐、軸索反射などにより生じる。
②神経障害による痛み
抹消性感作、神経腫、エファプス伝達、交感神経の関与などにより生じる。
③器質的異常が認められない慢性仏痛
中枢における神経伝達物質などの生化学的変化、情報処理過程の変調により生じる。
・種類
日本口腔顔面痛学会が発表している「非歯原性歯痛の診療ガイドライン改訂版(2019)」によると、非歯原性歯痛は以下の8種類に分類されています。
①筋・筋膜痛 (原因:関連痛)
非拍動性の仏くような痛みで、歯髄痛よりも持続時間が長い。
筋肉の酷使により生じ、心理的ストレスで悪化する。
トリガーポイント(筋肉が疲労することで形成される圧痛点)により関連痛が生じる
・関連痛のパターン
⑴側頭筋から上顎の歯
⑵伵筋から上下顎臼歯部/耳/顎関節
⑶外側翼突筋から上顎洞と顎関節
⑷顎二腹筋から下顎前歯部
⑸胸鎖乳突筋から口腔内と前頭部
⑹僧帽筋から下顎や側頭筋部
②神経障害性仏痛 (原因:神経障害による痛み)
これは発作性と持続性の2種類に大別されます。
・発作性神経障害性仏痛
電撃様仏痛(瞬間的な発作性の仏痛)を特徴とし、三伹神経痛に代表される。
三伹神経痛の90%は血管が神経を圧迫することで生じる。
初期症状では、鈍痛や仏痛持続時間が長い為、歯痛と誤診されやすい。
・持続性神経障害性仏痛
外傷/外科処置/神経障害が生じうる既往疾患があり、知覚鈍麻やアロディニアなどの神経障害性仏痛の特徴を伴う。
痛みは、灼熱性で持続する。
歯痛を生じさせるものとしては、帯状疱疹性神経痛や帯状疱疹後神経痛などが挙げられる。
③神経血管性頭痛 (原因:関連痛)
脳血管の神経原生炎症によって生じる一次性頭痛の総称で、片頭痛と自律神経性頭痛に大別されます。
頭痛は通常頭蓋の痛みですが、神経血管性頭痛は口腔顔面部に痛みを生じるものが多く、これにより歯痛が生じます。
・片頭痛
エストロゲン分泌量の変動と関連するため、月経のある女性に多い。
中顔面に痛みが生じることもあり、歯痛や顔面痛が主訴となる片頭痛も少なくない。
・自律神経性頭痛
患惻の激烈な痛みと自律神経症状を特徴とする頭痛。
下垂体腫瘍に起因するものが多いため、早期に専門医を受診すべきです。
④上顎洞性疾患 (原因:関連痛)
急性上顎洞炎による歯痛が最も多い。
上顎洞は上顎臼歯に近接しているため、同部に歯痛が生じる。
⑤心臓疾患 (原因:関連痛)
虚血性心疾患(狭心症・心筋伷塞)による歯痛。
近年、大動脈解離や心内膜炎、肺がんなどでも迷走神経を介して歯痛が生じることが報告されており、従来よりも心臓疾患による歯痛も増えてきている。
⑥精神疾患/心理社会的要因 (原因:器質的異常が認められない慢性仏痛)
精神疾患や日常的な心理社会的要因の身体化により歯痛を訴えることがあります。
全ての精神疾患が身体化による歯痛を生じうるが、中でもうつ病、双極性障害、パーソナリティ障害などにその傾向がよく見られます。
⑦特発性歯痛 (原因:器質的異常が認められない慢性仏痛)
一本以上の歯または抜歯後の部位に生じる持続性仏痛で、歯科的原因が全く存在しない歯痛のことを言います。
⑧その他様々な疾患による歯痛
血管炎、神経反応、薬物の副作用など様々な原因で歯痛が引き起こされる事があります。
ここで述べる薬物とは、抗精神病薬(ハロペリドール、リスペリドン)のことで、副作用として知覚過敏様の歯痛を発症するという報告もあります。
・非歯原性歯痛を疑う臨床症状
ここまで非歯原性歯痛の種類や原因についてご説明してきました。
では、多くの原因がある中でどのように歯が原因の歯痛と鑑別していくのでしょうか。
基本的には、痛みを訴える歯及び歯周組織に画像所見や客観的診査によって異常が認められないこと、また臨床症状として、歯髄炎や歯周炎の痛みと類似することもありますが、痛みを訴える歯に対し麻酔をしても歯痛が改善しないことで、原因が鑑別されます。
つまり、患者様への問診やレントゲン写真、各診査でも明らかな異常が認められず、仏痛部位に麻酔をしても痛みが消えない場合、非歯原性歯痛を疑います。
・終わりに
非歯原性歯痛は最近確立された新しい概念ですので、今回ご紹介させて頂きました。
歯が痛く歯科を受診した100人のうち5人はこの非歯原性歯痛であったという報告があるように、数としては少ない疾患ですが、他疾患との関連性も強い疾患ではありますので少しでも歯が痛いと感じたらすぐに歯科を受診しましょう。
早期発見により非歯原性歯痛だけでなく、様々な口腔のトラブルを予防・改善していきましょう。
歯科医師 瀬津昂斗
貴重な経験 in Deutschland
(ドイツの歯科事情)
皆さまこんにちは。
だんだん暑い日が続いていますが、体調など崩さずに元気にお過ごしでしょうか?
今年2月にWDAI(女性歯科インプラントアカデミー)で会員発表をさせていただきました。
コロナ時代のリモート発表という形で、なかなか楽しい体験をさせていただきました。
今回は全くインプラントと関係なく、学術的にもほど遠いテーマで、私がドイツで体験してきたことのお話になります。
正統派の留学とは違い、独自にドイツの一般歯科医院に潜入していった私の経験、および私が知り得たドイツの歯科事情を、皆さまにリラックスして読んでいただけたらありがたいと思います。
大学院を卒業後、一般開業医で臨床に携わっていた私に転機が訪れたのは、2011年3月11日の東日本大震災の時でした。
地震がきっかけで、突然夫の故郷のドイツへ移住することになりました。
ドイツ政府は、日本にいるドイツ人全員に直ちに日本を脱出してドイツに帰国するように喚起しました。
その後、平先生も励ましてくれたので、不安でいっぱいでしたが日本を離れることにしました。
そして、2011年の春から、ドイツ人の夫と共にノルトラインヴェストファーレン州のPaderbornという町に住むことになりました。
移民の国
ドイツに住んでみると良く分かるのですが、ここは世界で最も移民受け入れに力をいれている移民大国です。
ドイツでは移民の背景を持つ住民が、全人口の19%を占めるそうです。
政府が主催する移民用の語学学校には様々な国の方が集ります。
最も多いのがトルコ、次いでポーランド、ロシア、東欧、南欧、シリア、アフガニスタン、カザフスタン、コソボ、アフリカなどなど・・・
外国人の移入数の国際比較を見てみると、OECD加盟国の中で断トツ1位がドイツでした。
実は日本も4番目に位置していて意外な感じがします。
歯科医師の承認試験 (Approbationspruefung)
日本と同様に、超高齢化社会のドイツではすでに、労働力不足、特にエンジニアや情報技術関連、医師などの専門家不足が深刻な問題となっていました。
この問題を解決するためにドイツ政府は資格の承認試験を行い、有能な人材を国外から受け入れることに力を入れております。
私の住む町でも、多くの外国人医師たち(歯科医師はほとんどいませでした)が、この承認試験を受けに集まっていました。
承認試験に受かるためには、十分な知識と経験、および言葉が重要な条件になります。
私の場合は、まずドイツ語検定のB2レベルまで一般のドイツ語クラスで勉強しました。
その後は、医療従事者向けの承認試験対策クラスに参加したりなどして、試験対策をしました。
承認試験は1対2の面接方式でした。歯科に関する文章を読み、その後質疑応答がありました。
承認試験に受かってからは、地域の歯科医師会の会員になることができます。
そして、様々な研修会に参加することもできるようになりました。
残念ながら、私の住む町では、ドイツ語を母国語レベルで話すことのできない私にとっては一般の歯科医院で就職するのは非常に難しく、まずは見学からさせていただくことになりました。
ドイツの歯科医院
まず、ドイツの歯科医院を訪問すると、その環境の良さに驚きます。
清潔第一で、シンプルで無駄のないインテリア、そしてゆったりとした広さの完全個室が一般的です。
矯正歯科専門の大きなクリニックは例外的に個室ではありませんでした。
私がお世話になっていた医院では、ドクターが1人に対して完全個室の診療室が4部屋あり、さらに歯科衛生士が行う予防歯科用の診療室が2部屋ありました。
治療に使用する機材も最先端のものが揃っていました。
保険制度の違い
保険制度の違いは海外で医療にかかると良く分かります。
ドイツでは「歯科疾患は自己責任の病気」という前提があるため、公的保険でカバーされる治療の範囲がかなりに狭いです。
この認識はドイツのみならず欧州全体に共通したものです。
日本では、かなり広い範囲の歯科治療が公的保険でカバーされます。
このことは世界の標準からすると例外的です。
現在ドイツやその他の多くの国では、虫歯治療や歯根治療は保険適応外(または最小限の治療が一部適用)になっています。
歯科治療全般で機器や医療技術が著しく発達した現代では、高いレベルの治療が求められるに従いコストも増加したため、多くの国が歯科治療を公的保険から外すことになったそうです。
また、口腔ケア、定期的なクリーニングによってかなり予防できることが証明されたので、これらの口腔疾患は「自己責任の病気」として考えられるようになったことが根底にあるそうです。
ドイツの保険制度
ドイツでは、全て住民が法定健康保険システム(Gesetzliche Krankenversicherung)ないしは民間健康医療保険システム(Private Krankenversicherung)のいずれかに必ず加入しなくてはなりません。
大半の被雇用者には法定保険への加入が義務付けられていますが、月収がある一定額を超える被雇用者やフリーランサー、会社経営者の加入は任意となり、民間保険を選択することもできます。
法定保険料は収入に対する割合で決まる一方、民間保険では保障内容や加入時の年齢、既往歴などによって保険料が決まります。
歯科治療を受けた際の給付は、保険の種類、治療内容だけでなく、これまで定期的に歯科検診を受けていたかによっても左右されます。
Bonusheft
ドイツの法定保険の非常にユニークなシステムとして、Bonusheftがあります。Bonusは英語と同じくボーナス、Heftは冊子のことで、小さなパンフレットになっています。
これは、定期検診を受けていると治療費の給付が増額され、補綴物の料金が割引されるサービスです。
6歳以上18歳未満は年に2回、18歳以上は年に1回の歯科検診を受けると、このBonusheftにスタンプがもらえます。
このスタンプが継続された期間に応じて、法定保険の対象である治療を受けた際に給付される金額にボーナスと補綴物の割引が受けられます。
という訳で、多くのドイツ人にとって歯科の定期検診を受けることは常識です。
このような制度は日本でも真似したいですね。
定期的に歯科検診へ行くことへの励みになります。
ドイツの医院では治療終了時のお会計がありません。
ドイツの医科及び歯科医院では治療が終わると、患者さんは受付で次回の予約をとるだけで、その日のお会計はありません。
治療費は全て医師から保険会社への連絡により、処理されます。
必要な費用が発生した場合は保険会社から患者さんへ連絡が行き、支払いは銀行振込などで支払われます。
医院では会計の手間が省け非常にスマートな方法だと思います。
ドイツの歯科医院では署名しなくてはならない書類が多い
ドイツの歯科医院では自費診療を行う際、高額の医療費がかかることが多いので、あらかじめ治療に関する内容やプロセス、使用する材料などを詳細に説明したうえで見積書を発行する必要があります。
患者さんが説明を理解し、同意書にサインをしてから治療が開始されます。
ドイツ人の働き方
ドイツ人は朝早くから働きます。
だいたい、普通の医療系の診療所は午前8時から始まっていました。
通勤に行く前に、診療へ行く方が多いです。
私が見学させていただいていた歯科医院では、希望する患者がいる場合は、朝の7時から歯科衛生士さんによるクリーニング(Prophylax)プロフィラキシィを実施していました。
始業時間は早いのですが、終わる時間も午後5時ころと早いところが多かったです。
歯科医院でも、たくさんの歯科医師が働く規模の大きい歯科医院もあり、そこでは交代制にし、朝7時半から夜の9 時ころまで開けていました。
だいたい一人の診療時間は処置の内容にもよりますが、日本よりは長めにとっているようでした。
診療の内容は当然、自費診療が多いです。
ドイツ人は仕事が終わった後の時間を有効に楽しもうとします。
夜にスポーツジムに行ったり、友人宅に遊びに行ったりします。
なんとなく就業時間の長い日本とは異なり、ゆったりした時間を楽しむことのできるお国柄だなと思いました。
仕事とプライベートの時間をしっかり区別するところがドイツらしいところなのかもしれません。
最後に、日本では歯科医院に行くのは、何かお口の中に問題が発生した時だけと思っている方が多いようですが、実はそうではないのです。
特に問題が無くても、定期的な口腔内の検診とメンテナンスは非常に重要なことですので、常日頃から歯科医院をもっと有効に活用していただくことをお勧めします。
歯科医師 大庭美和
子供の口が開いていると何が悪いの?
こんにちは。
皆さんはじめまして。
4月から臨床研修医をさせて頂いております、西田光里です。
6年間大学で学んだことを生かし、一人前の歯科医師として成長出来るよう日々努力して 参ります。
今年も、ジメジメとすっきりしないお天気が多くなって来たように感じます。
梅雨の走りでしょうか?
梅雨と聞いただけで憂鬱な気分になりますね。
梅雨が終わった夏の事を考えて、今月も皆様どうか健康に気をつけて過ごされて下さい。
突然ですが、今日は私が気になるトピックについて少しお話しさせて頂きたいと思います。
お子さんの口がポカンと開いている事が多くはないでしょうか?
子供の口が開いていると何が悪いの?
と思われる方とても多いと思います。
お口が開いているということは、鼻呼吸ではなく口呼吸をしているという事が考えられます。
口呼吸を続けていると
・虫歯になりやすい。
・歯周病、歯肉炎になりやすい。
・出っ歯になりやすい。
・舌の位置が下がりやすい。
・いびきをかきやすく、睡眠時無呼吸症候群のリスクが高まる。
・姿勢が悪くなる。
・口腔習癖がついてしまう。
実はこの様に沢山の弊害をもたらす事が分かっています。
なんで口呼吸になってしまうの?
・鼻炎やアレルギー、アデノイドなど耳鼻科疾患
・歯並びや口周りの筋肉が弱い歯科的な問題がある。
・硬いものを食べる機会が減る、言葉の伝達の仕方の変化で口を使う機会が減ったことで筋 肉が発達しにくくなっている。
他にも、スマートフォンでゲームに熱中している時なども口呼吸になりやすいので注意が必要です。
また口呼吸は自覚しにくく、わかりにくい事も多いです。
その場合は以下の事を確認してみ てください。
・唇が乾いている事が多い。
・口が閉じにくく、閉じると顎に梅干しのような皺が出来る。
・上顎の歯茎が腫れぼったい。
この様な事から口呼吸が指摘される事もあります。
どこを受診したらいいの?
まずはお子さんに、お口を閉じるように声がけをしてあげてください。
意識を変える事がとても大切です。
そして耳鼻咽喉科疾患がないか耳鼻咽喉科で確認してください。
そこで風邪やアレルギーが ないのに口呼吸が治らない場合は歯や噛み合わせに原因があります。
まずは、かかりつけの 歯医者さんやお近くの歯医者さんを受診してみてください。
その後必要に応じて、小児歯科 や矯正歯科を受診されると良いと思います。
耳鼻咽喉科疾患の扁桃肥大(アデノイド)
口呼吸を治すにはどうしたらいいの?
耳鼻科疾患に対しては、耳鼻咽喉科を受診してください。
歯並びが悪い事が原因の場合は矯 正治療を行います。
口周りの筋肉に問題がある場合はMFT(筋機能療法 oral myofunctional therapy)を行います。
MFTとは?
筋肉の不調和を舌や口唇、頬などの口腔顔面筋のトレーニングをとおして整えていく療法です。
咀嚼時、嚥下時、発音時、安静時の舌や唇の位置の改善、および呼吸をはじめとした口 腔機能の改善効果が期待できます。
矯正治療と並行して行うとより効果的とされています。
具体的にはどうやってやるの?
お口周りの筋肉を鍛えるのは、体に筋肉をつける事と同じように継続して続ける事が大切です。
今回は取り入れやすいと思う、トレーニングをご紹介させていただきます。
ステックを用いて舌を尖らせ、舌尖のの強化を行います。
舌尖部で、口角と上下口唇をなぞり運動性を向上させます。
咀嚼筋の収縮を手で触れ確認しながら噛み締めます。
(A側頭筋B咬筋)
いかがだったでしょうか?口呼吸の奥深さを知っていただけたら幸いです。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
参考文献
矯正歯科学 第六版 医歯薬出版
http://www.oralmyofunctional.info/
新版口腔筋機能療法MFTの実際 クインテッセンス出版株式会社
小児歯科学 第五版
歯周病原細菌と血管病変の関わり
皆様こんにちは。
すっかり春らしい暖かな季節となりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?
朝晩はまだまだ冷え込む日もありますので体調を崩さないように気をつけてお過ごしください。
今回は歯周病と血管病変の関係についてお話ししたいと思います。
皆様ご存じかと思いますが、歯周病とは歯と歯茎の境目に付着したプラーク(細菌の塊)・歯石(プラークが石灰化したもの)に存在する歯周病原細菌により歯肉の発赤、腫れ、出血などが起きる病気です。
進行すると歯と歯茎の隙間(歯周ポケット)が深くなり、細菌によって歯を支えている骨などの歯周組織を破壊し、結果的に歯を失う原因になります。
抜歯の主原因(全体)と抜歯の主原因別にみた抜歯数(年齢階級別、実数)
2018年に全国2,345の歯科医院で行われた全国抜歯原因調査結果より
(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-04-002.html)
上図より、歯を失う原因は歯周病が最も多いことがわかります。
そして、近年の研究によってこの歯周病を起こす歯周病原細菌は全身の血管疾患と関与していることが分かってきました。
※
動脈硬化とは、血管の内側にコレステロールなどが付着して血管が狭く硬くなり、血液の流れが悪くなった状態です。糖尿病や高血圧、高脂血症、肥満、喫煙などが原因で発症します。
一般的に動脈硬化と言えばアテローム性動脈硬化症を指します。
その他、血管病変のやや危険なものとして四肢の粥状硬化症、下肢静脈瘤、バージャー病、などと関係があります。
バージャー病については後述させていただきます。
一見、口の中の疾患である歯周病と全身を巡る血管の病変は無関係だと思う方は医療関係者も含め、沢山いらっしゃると思います。
しかし様々な研究により生死に関わる重篤な病変にも関係があることが分かってきました。
次に、そのメカニズムについてご説明していきます。
〇歯周病による循環器疾患に影響するメカニズム
歯周病にかかっている人はそうでない人に比べ1.5~2.8倍も循環器病を発症しやすいことがわかっています。
循環器病の原因となるアテローム性動脈硬化症(コレステロールなどの脂質が動脈内膜にお粥状に沈着した動脈硬化)=粥状動脈硬化の程度が、歯周病と関連することがわかってきました。
興味深いことに、アテローム性動脈硬化が起きている部分から歯周病菌が検出されたという結果が多数、報告されています。
歯周病が循環器病に影響するメカニズムは、歯周病菌やその菌体成分などが、直接、血管に障害を与える作用に加え、炎症の起きた歯周組織で作られる「炎症性サイトカイン」(IL- 1、IL- 6、TNF-αなど)が血流を通じて心臓や血管に移動し、血管内皮細胞やアテローム性動脈硬化部分の免疫細胞が活性化されて、心臓血管系の異常を引き起こすのではないかと考えられています。
また、肝臓が炎症性サイトカインの刺激を受けて作る「急性期たんぱく質(CRP)」の作用がアテローム性動脈硬化症の進行を促すのではないかと考えられています。
国立循環器病研究センターHPより(www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/general/pamph105.html)
さて、先程冒頭でご紹介致しましたバージャー病という病気を皆さまご存じでしょうか。
なかなか耳にされたことがない疾患だと思いますが、こちらも歯周病菌が関与する重要な疾患ですのでこの機会に是非ご理解いただけたらなと思います。
○バージャー病とは
たばこを吸う20才代から40才代の男性(女性は少ない)にみられる代表的な手足の動脈の病気です.
しかもだんだんと血管がつまってくるために,ほっておけば足が腐ってしまう病気です.
別名として特発性脱疽,閉塞性血栓血管炎などと言われることがあります.
病気は,足趾(あしゆび)や指にチアノーゼ(皮膚が濃い青紫色になること)や強い痛みがおこり,時間ともに皮膚が剥げたような潰瘍,腐った壊死と呼ばれる状態になります.
ついには足だけの切断,ひどくなると膝関節の15cm位下での切断になることがあります.
静脈にも炎症を起こすこと,たばこをやめると病気が進行しないことなど特徴があります.
しかし依然原因の定まらない難病とされており、国の特定疾患に指定されています.
アメリカ人のバージャー博士が1900年初頭研究論文を多数発表したことから彼の名があります.
我が国では,1990年頃より発症患者さんが減少しています.
欧米ではすでに我が国より早くから減少していますが,南および東アジアには依然多く,対策が急がれている血管の病気です.
《診断基準(塩野谷)》
50才以下の発症、ヘビースモーカー、下肢の動脈閉塞、遊走性静脈炎と、さらに粥状硬化症悪化因子である高血圧、脂質異常症、糖尿病が無いことである。
(※この基準に1つでも合わない症候群がどうなるのかは一切書かれていない。)
〇バージャー病の研究
この難病の原因の解明と予防法や治療法の開発のために,東京医科歯科大学ではバージャー病共同研究グループを組織して,歯周病学分野石川烈教授と岩井武尚教授を中心に研究を進められてきました.
(以下http://www.tmd.ac.jp/med/srg1/sinryo_buerger02.html参照)
『バージャー病患者の口腔内と患部の血管を調べて,歯周病とバージャー病との関連について検討しました.
その結果,全てのバージャー病患者は歯周病と診断され,その程度はいずれも中等度から重症でした.
また,患部の血管試料のほとんどから歯周病菌が検出されました.
それに対して,正常血管の試料からは歯周病菌は全く検出されませんでした.
この発見は,今まで原因不明であったバージャー病と歯周病の関連を示した世界で初めての成果で,米国の血管外科専門誌 Journal of Vascular Surgery 41巻2005年7月号に 「Oral bacteria in the occluded arteries of patients with Buerger disease」 (バージャー病患者の閉塞動脈内に口腔細菌) と題して発表されます。
この発見によりバージャー病の原因や悪化が口腔内の細菌特に歯周病菌によるという可能性が強く示され,バージャー病の予防法や治療法の開発のための大きな手掛かりが得られました。』
また、バージャー病にかかるということは,たばこによる歯周病の悪化に引き続く歯周病菌の血管感染によるものではないかと考えられています。
そもそも喫煙は動脈硬化の原因となることが分かっており、またたばこの主成分であるニコチンはバージャー病の原因であると考えられ、研究が続けられてきました。
結果として、喫煙がバージャー病を発症させ、痛みを緩和させようと、さらにニコチン依存となり自分の持つ遺伝子型と一致することで病気が進行することがわかりました。
また喫煙は歯周組織に対して下図のような影響を及ぼす為、
現段階の研究結果によるバージャー病の発症にはこれらの因子が複雑に絡み合っているものだと言えます。
〇治療法
現在におけるバージャー病の治療法としては、受動喫煙も含め、第1に禁煙を厳守することだそうです。
このために適切な禁煙指導を行う必要があります。
また患肢の保温、保護に努めて靴ずれなどの外傷を避け、歩行訓練や運動療法を基本的な治療を行い、薬物療法としては抗血小板薬や抗凝固薬、プロスタグランジンE1製剤の静注などが行われます。
重症例に対しては末梢血管床が良好であれば、バイパス術などの血行再建を行うそうです。
血行再建が適応外とされる症例では、交感神経節切除術やブロックが行われており、また肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor 、HGF)を用いた治療について検討が進んでいます。
今回は歯周病と血管病変との関わりについてのご説明をしてきましたが、
歯周病と関係の深い重要な全身疾患はその他にもございますので最後にその一部を
ご紹介させていただきます。
https://www.jacp.net/perio/effect/ 日本臨床歯周病学会HPより
いかがだったでしょうか。
歯周病は、さまざまな全身の病気と関係していることがわかってきました。
互いに影響を及ぼす結果、歯周病も全身の病気も悪化する可能性があります。
生活習慣病や循環器病を持つ患者さんは、歯周病は口の中だけの病気と軽視せず、かかりつけの歯科医師のもとで定期的な歯科検診を心がけましょう。
治療の必要性がある場合は、しっかりと歯科治療、歯周治療を受け、口の中を健康に保ちましょう。
歯周病の原因は、歯と歯ぐきの境目にすみついた細菌です。
そのため日々正しい歯みがきを続けることが一番の予防方法なのです。
自分に合った歯のみがき方を身につけて、自分で歯ぐきの健康を守れるようにしましょう。
また、たばこは歯周病の発症や進行に悪影響を与えることが明らかになっています。
全身的な病気の予防や治療に加えて、禁煙など生活習慣の改善も歯周病予防に必要です。
なによりも健康な歯ぐきを保つこと、つまり、健康な歯でおいしく食べることは、有意義で快活な日常生活を過ごしていくための大前提なのです。
歯科医師 小松リナ
2021年4月23日 カテゴリ:未分類
歯科衛生士が提案するアンチエイジング
アンチエイジング=健康⻑寿医学
『抗加齢医学(Anti-Aging Medicine)=アンチエイジング』という⾔葉は近年テレビや雑誌で多く取り上げられており なじみ深いものとなって来ております。
しかし 『アンチエイジング=美容医学』・年齢に逆らった⾒た⽬に執着し 無理やり若返ろうとするという意味・イメージが先⾏していますが、『抗加齢医学の定義』は
〝元気で⻑寿を享受することを⽬指す理論的・実践的科学“という考えを意味しています。
⼈は外的ストレス(喫煙・不規則な⽣活⾏動・公害ガス・紫外線など)や内的ストレスによる⾝体を錆びつかせる活性酸素・フリーラジカルが、体内に多く発⽣します。
その結果 ⽣活習慣病が発⽣し⽼化あるいは加齢が加速的に促進されます。
健康な⾝体で過ごすために、「アンチエイジングの三原則」があります。
1 不必要な物は排泄→プラーク・⻭⽯除去
プラークや⻭⽯の⻑期付着・沈着は炎症を誘発します。
慢性的な炎症が⻭周疾患発症や重度進⾏ 全⾝疾患(糖尿病・認知症や癌・脳卒中・⼼疾患)と深く関わってきます。
2 不⾜分は補う→トリートメント
過剰なブラッシング等によりは表⾯には⾒えない細かな傷が作られます。
また 頻回な酸性の飲⾷や摂取の仕⽅により⻭の内部からカルシウム成分が溶出し不⾜してしまいます。
⻭科医院で⾏うトリートメント(⻭⾯研磨)でナノ粒⼦ハイドロキシアパタイトペーストを擦り込む作業は不⾜分を補うアンチエイジング⾏動となります。
3 ⼝腔の防御⼒→「唾液⼒」
唾液の中には多くの化学物質が含まれておりすぐれた作⽤があります。
電解質 | ナトリウム・カリウム・マグネシウム・カルシウム・鉄・銅・亜鉛など |
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糖質 | ブドウ糖とその中間代謝物・乳酸など |
タンパク質 | アミラーゼ・リゾチーム・糖タンパク・免疫グロブリン・酵素など |
⾮タンパク性 窒素化合物 |
尿酸・クレアチニン・など |
その他 | コルチゾール・グルカゴンなどのホルモン・ビタミンなど |
組織修復作⽤ | 成⻑因⼦が傷を治す |
潤滑作⽤ | 機械的刺激から⼝腔粘膜を保護、安静時唾液の性質が⼤きく関与 |
浄化作⽤ | ⾷物中の炭⽔化物やプラークが産⽣する酸などを洗浄 |
緩衝作⽤ | ⼝腔内の pH を中性に維持、解禁の繁殖を抑える |
抗菌作⽤ | 外来の病原微⽣物の侵⼊を防御 |
再⽯灰化作⽤ | 無機質を供給 |
消化作⽤ | デンプン分解、脂肪分解作⽤ |
味覚作⽤ | 味覚物質を溶解し味覚の促進 |
噛む事で副交感神経が刺激されて作られる若返りホルモンに「パラチン」軟膜を保護する事で病原体の侵⼊を防ぐ「ムチン」(糖タンパク)「ペルオキシターゼ」は⼝腔細菌の増殖や酸産⽣を抑えます。
IgA.IgG(免疫グロブリン)は細菌のコロニー形成を阻害し⼝腔内組織への付着を防⽌します。
各々が役割を担当し⼝腔内感染から守ってくれています。
唾液の⼒で⼝腔をカリエスや⻭周病から守る。素晴らしい予防効果・アンチエイジングが得られます。
【⻭科衛⽣⼠が提案できるアンチエイジング 】
1 予防
⻭周病は⽣活習慣病という観点から⻭周病は病的⽼化と考えられます。
予防を⾏い健康な⻭と、⻭周組織で噛める 話せる 飲み込める。
効果あるの機能年齢を若く保つことができます。
2 美的 PMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning)
治療場⾯では炎症改善なため。予防の場⾯では⻭周組織確⽴と維持のため。
より健康で美しい⼝元を、作り上げていきます。
3 顔の筋⾁のトレーニング
⼝元には 30 種類もの表情筋が存在します。
きちんと筋⾁を動かして咬合し⿐呼吸をする事により、唾液分泌促進・美しいフェイスラインが得られます。
⽇々無意識に過ごしているときはわずか20%程度の筋⾁しか使えていません。
⽚⽅噛み・⻭ぎしりなどで過剰な⼒がかかり⾎液・リンパ液の循環がわるくなり⽼廃物や⽔分がたまり眼や頬にむくみが出てしまいます。
4 ⼝腔内・外マッサージ
マッサージすることにより⾎流を促し炎症コントロールのほか 疼痛緩和や組織の活動をよくする効果があります。
⾝体がリラックス状態になると漿液性のサラサラ唾液が⽿下腺、顎下腺から分泌されます。
良質な唾液には酸素が多く含まれており、中性で無臭です。
5 ⼝臭
各種細菌等によって分解されてできる窒素有臭気、⾷物残渣、細菌などの浮遊物質など不安定な⼝腔環境 ⼝臭を引き起こす原因はたくさんあります。
予防には⾍⻭・⻭周疾患処置はもちろん、たくさんの唾液分泌を促し、唾液⼒を活⽤して⼝腔内環境を安定することが⼤切です。
⼝臭コントロールには⼝腔ケア以外に⾷の摂り⽅にも関係します。
よく噛む・空腹時 緊張時など⾃律神経の作⽤により唾液分泌が少ない時は ph 値の低い飲⾷物を避ける・⾷物繊維の多い物を摂る・⽔分補給などがあります。
健全に過ごせるためにアンチエイジングという視点でも⻭科医院が⾏動実践医学の窓⼝になっていければと思っております。
⻭科衛⽣⼠ 増⽥
2021年3月23日 カテゴリ:未分類